日本はスペイン無敵艦隊の「二の舞」になる 元国税調査官が分析する「消費増税」のリスク

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当時のフランスでは、農作物の不作などにより、庶民は苦しい生活を強いられていました。そのため、国王とその一族の贅沢な生活が、怨嗟の対象となります。それが、フランス革命へとエスカレートしていくのです。

一部の人だけが潤う一方で、国は富裕層から税金を取れず、ますます財政を悪化させる……これは現代の世界経済、日本経済が抱えている問題そのものだともいえます。

無敵艦隊は「消費税」によって沈められた

少し時代はさかのぼりますが、大航海時代の主役だったスペインも、財政悪化に苦しめられました。当時のスペインは、米国大陸、中東、東南アジアなどの世界中に植民地を持ち、「日の沈まない帝国」とも言われていました。強力な海軍力を誇り、その威圧によって広大な植民地を獲得・支配してきました。そして1571年には、レパントの海戦でキリスト教国の宿敵だったオスマン・トルコを破り、名実ともに「無敵艦隊」になっていたのです。

ところが、17世紀に入ると、スペインの無敵艦隊がイギリス海軍に押されるようになります。そして、17世紀中ごろには世界の覇権をイギリスに奪われてしまうのです。あれほど強力だった無敵艦隊が衰退し、スペインが衰えていった最大の要因も、財政問題だったといえます。大航海時代のスペインは植民地から莫大な富を収奪していたにもかかわらず、財政危機が慢性化していたのです。

1527年にスペインの王位を継いだフェリペ2世は、米国大陸をはじめとする広大なスペインの版図を相続しましたが、引き継いだ負債はそれよりも大きいものでした。フェリペ2世の後を継いだフェリペ3世は、さらに悲惨です。

王位を継承した時点で、歳入の8倍にも及ぶ負債がありました。スペインはこのころ各地で派手に戦争を繰り広げており、それが財政をどんどん悪化させていたのです。そして、スペインは財政を好転させるために、最悪の税金を選択します。

財政難のスペインが取り入れたのは「アルカバラ」と言われる税で、これは「消費税」の一種です。中世のころイスラム圏から持ち込まれた考え方で、大航海時代のスペインは、これを税収の柱に置いたのです。当初は、不動産や一部の商品の取引にだけ課されていましたが、次第に課税対象が拡大し、食料品など生活必需品にも課せられるようになっていきます。

消費税には、現代においても国の景気を後退させる作用があります。ただ、この当時のスペインの消費税「アルカバラ」は、さらにひどいものでした。現在、世界各国で課せられている消費税のほとんどは、「取引ごと」に課せられるのではなく、「一品ごと」に課せられます。その品を最終的に消費する人が、一回だけ消費税を払えばいいという仕組みになっているのです。

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