世界が再び「平和」から遠ざかっているワケ イスラム世界が死者の数を押し上げている

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問題は、こうした動きがいつ、再び平和へと変わるのかという点だ。国連などのおかげで国家間の戦争はほぼ皆無となったが、国家と非国家組織の戦いは起きている。ナイジェリアとボコ・ハラム、インドとナクサライト武装組織などだ。イランがレバノンのヒズボラ戦闘員を使ってシリアのアサド政権打倒を図っているように、冷戦に似た代理戦争も発生している。

プロイセン王国の軍人クラウゼヴィッツは約200年前、「戦争とは、敵を強制してわれわれの意志を遂行させるために用いられる暴力行為である」と述べている。

ISを屈服させられない2つの理由

聖戦を唱える過激派組織のイスラム国(IS)を屈服させられるか疑わしい理由は2つある。第1に外部の強力な軍事組織が積極的でない点だ。米国、北大西洋条約機構(NATO)、ロシアのいずれも「地上軍を投入する」気がない。イラクやアフガニスタンでの苦い経験があるからだ。

2つ目はISが世界中のイスラム教徒13億人へ宗教的なメッセージを送っている点だ。アラブ世界の民族国家はカリフ(預言者ムハンマドの後継者)によって継承され、一時はメソポタミア地域から大西洋まで文明が広がっていた。ISの最高指導者バグダディは2014年6月にカリフ即位を宣言して人々の共感を呼んだ。さらにISの残虐性は、世界中で何十年間もワッハーブ派の原理主義を広めてきたサウジアラビアの行為と、どこか似ている。

言い換えれば、イスラム世界に平和が戻れば、そうしたメッセージも変化するはずだ。だが、何世紀にもわたるサウジとイランの対立が根深いこととなどから、当面は考えにくい。

ISの壊滅にはイランの力が必要だとサウジが理解したり、構成員が音楽を聴く自由などを要求してISが内部崩壊したりする可能性を、現時点ではまず期待できないのは、悲しいところだ。

北朝鮮が証明してきたように、ISの残虐な体制はかなり長続きするだろう。並行して、紛争による死者はしばらく増加の一途をたどって世界の外交・調停努力をあざ笑い、人類と文明の輝きは、うわべだけのものにとどまるだろう。

ジョン・アンドリュース 英『エコノミスト』誌の元エディター

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ジョン・アンドリュース / John Andrews

英ケンブリッジ大学、ロンドン大学院卒。ガーディアン紙を経て『エコノミスト』誌へ移り、特派員やエディターを務めた。寄稿や著書も多数

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