国宝を守らなければ「年金・医療」はもたない イギリス人アナリスト、「文化と経済」を斬る
そのような文化財業界の改革を行うためには、建設的かつ哲学的変革が不可欠です。そこで、まずは現在の文化財をめぐるさまざまな問題を知っていただき、それを解決するためにはどのような手を打たなくてはいけないのかということを、1人でも多くの日本人に理解していただく必要があります。それこそが、本書を著した主たる目的です。
なぜイギリス人が「日本文化」を気にするのか
なぜイギリス人がそこまでやるのか。余計なお世話だと思う方もいるかもしれませんが、これは25年間日本の世話になってきた、私なりの「恩返し」なのです。
2年ほど前から文化財行政の問題点、観光立国の必要性などを提言し、出版や講演活動を行ってきました。小西美術工藝社という300年以上の歴史をもつ文化財修理の会社の社長をしているということもあって、「あのイギリス人は自分の会社が儲けるために、補助金を増やすように働きかけている」という批判もありますが、ポジショントークでこのような発言をしているわけではありません。
まず、これは誤解を生む発言かもしれませんが、私は小西美術工藝社が儲からなくても、日本の文化財業界にたくさんの補助金が下りてこなくても、個人的にはまったく困りません。社長として、社員の生活を守るという意味では成長を目指していますが、個人的には利害関係はないのです。
これまでの私の本を読んでいただいた方はわかると思いますが、もともと私はゴールドマン・サックスで稼いだおカネで、好きな茶道でもしながらゆっくりと残りの余生を過ごそうと思っていました。私が小西美術工藝社の社長を務めているのは、前社長から経営を立て直してほしいと頼まれ、「日本の伝統文化がすぐ近くで見られるよ」と口説かれたからにすぎません。
私はこの会社の株主でもありませんし、今いただいている社長としての年収は、前職の年収の8日分にもなりません。友人などにはよく「25年前にスーツケース2つで日本にやってきて、今では日本に3つも家をもっている。すごい出世だね」などとからかわれます。自慢をしているわけではありません。文化財や観光の仕事をしなくても、おカネに困っていないということが言いたいのです。
もしおカネのためとか、なにかしらの利権のために発言をするのなら、以前のような金融アナリストとして復帰したほうがよほど稼げます。にもかかわらず、なぜ文化財修理会社の社長をしながら、文化財業界の方たちからも顔をしかめられるような提言を続けるのかというと、これが日本のためになると信じているからです。
私が25年も日本に住んでいる理由のひとつは、日本の伝統文化が好きだからです。これを守り、次の世代へと継承していくのは、日本のみならず世界中のためになると本気で考えています。
日本の歴史や伝統というのは、日本のみなさまはもちろんのこと、人類共通の資産だからです。
ここまで読んでいただいてお気づきのように、私は物事をストレートに言ってしまう傾向があります。なかには、挑発的に感じて不快に思われる方もいるかもしれませんが、危機的な状況を迎えている日本文化を守り、その発展に貢献したいという気持ちからだということだけは、わかっていただければ幸いです。
2015年12月31日 京都にて
デービッド・アトキンソン
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