国宝を守らなければ「年金・医療」はもたない

イギリス人アナリスト、「文化と経済」を斬る

文化財の維持には、国から補助金が出るじゃないかと思うかもしれませんが、現在の厳しい国家財政のなかで、投資に対する利益が見込めない文化財への補助金も、無制限に出るものではありません。

このまま国からの補助も地元からの支援も望めないのなら、観光客におカネを出してもらって、文化財維持に貢献してもらうしかないのは自明の理でしょう。

(3)日本文化の伝承

これは私のような外国人に指摘されるまでもなく、みなさんも実感しているでしょうが、日本社会、あるいは日本の家庭から、伝統的な日本文化が消滅しつつあります。

たとえば京都の街並みを見ても、かつての伝統家屋が急速に破壊され、西洋風な家屋、マンションや大型商業施設、あるいは駐車場へと姿を変えています。この破壊のペースは、まるで戦時中の空襲に晒されているようなものです。建造物がなくなると、そのなかで培われてきた「人間文化」も、行き場所を失います。

もちろん、このような社会の変化はしかたがない部分もありますが、固有の文化が完全に消えてしまうことが、国にとって大きな損失であるのは言うまでもありません。そこで若い世代に本物の日本文化や正しい日本の歴史を伝えていく場所として、文化財というものが今まで以上に重要な責任と役割を担うようになっていくのは間違いないでしょう。

しかし、今の文化財は、そのような役割は果たしていません。今の制度では、建物という「器」は保護するものの、その「中身」である人間文化を排除する傾向が強いです。まず、基本的に訪れる人への「説明」が足りません。ガイドや案内板が少ないだけでなく、建物自体の保存がメインなので、この建物を当時の人々がどのように使用し、生活をしていたのかという「人間文化の再現」がなされていないのです。たとえるのなら、家具の置いていない空っぽの家が展示されているだけなのです。

これでは、伝統建築以外の日本文化を学ぶことができません。これは私だけではなく、口コミを検索すればわかるとおり、多くの外国人が抱く印象です。

同時に日本の若い世代はあまり日本文化や歴史を知りません。それは一般的に言われるように、この世代が「知る努力」を怠ってきたというよりも、文化財などを活用した「教える努力」を怠ってきたからではないかと思っています。

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