非情な世界を勝ち抜いた松山英樹の「無心」 「邪念」に変わったファウラーの優美な想い

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ピン位置が手前だったこの日、松山は手堅く3番ウッドを握り、グリーン手前から安全に攻めた。ファウラーはボギー。松山はバーディー。運命の17番で2人は首位に並んだ。数字はともに13アンダー、1位タイ。しかし、それぞれの胸の中の温度はすっかり異なっていた。「追いつかれた」という焦りの熱に包まれたファウラー。「追いついた」という勢いの熱を燃え上がらせた松山。

言うなれば、ファウラーは負の熱、松山は正の熱。それぞれの熱は、すでに正反対のベクトルを示していた。そう、形勢はこのときすでに逆転していた。

「追いついた者」と「追いつかれた者」の差

ともにバーディーでプレーオフ突入を決めた、72ホール目の18番グリーン(筆者撮影)

72ホール目の18番はともにバーディーでプレーオフ突入が決まった。このときも数字の上では同等だったが、それぞれのバーディーの奪い方は、2人のベクトルの違いに追い打ちをかけた。

ファウラーはピン3メートル、松山は5メートル半。18番グリーンを囲む大観衆からリッキーコールと大歓声が上がり、一見、ファウラー優勢に見えた。だが、正の熱を燃えたぎらせていた松山が先に5メートル半を捻じ込んでガッツポーズを取ると、チャンスだったはずのファウラーの3メートルは一転してプレッシャーのかかるピンチへ様変わり。

「追いつかれた者」の苦しさ。「追いついた者」の勢い。その差は、互いに分けたプレーオフ1ホール目から3ホール目でも明らかに見て取れた。

1ホール目の18番。松山はきっちりグリーンを捉えて2パットのパーとしたのに対し、ファウラーは第2打がグリーン手前から花道へ跳ね返り、次打のミラクルチップで辛くもパーを拾った。2ホール目の18番。セカンドショットはどちらもピンに絡む快打だったが、ファウラーは5メートル、松山は4メートル。松山がわずかに内側に付けた。

3ホール目の10番。松山はフェアウエイのど真ん中を堂々ととらえ、グリーン奥のカラーへ第2打を運んだ。一方、ファウラーはドライバーショットを大きく左に曲げ、ロープ外からの第2打はグリーン奥のラフへ。松山は楽々のパー、ファウラーは必死のパー。

71ホール目から続いていたファウラーの苦しさが、ついに限界を越えたのが、プレーオフ4ホール目の17番だった。

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