シャープが一転して「鴻海提案」に傾いた事情 奇妙なことに今のシャープはモテモテ状態

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2月4日の会見で、シャープは鴻海との提携のメリットについて、「共同運営しているSDP(旧シャープ堺工場)や、それ以外の鴻海の液晶工場と協業が可能だ。液晶以外の分野に関しても、製造を外部委託している製品に関して、鴻海の巨大な部品調達能力や生産能力を活かすことができれば、シナジーは大きい」(高橋社長)と説明した。また、懸念されている海外への技術流出に関しては、「SDPを共同運営してきた3年間、技術流出は起きなかった。お互い信頼関係を築くことができている」(同)とした。

ある政府関係者は「産業革新機構から出資をしたいと言ったわけではないのに、いつのまにか、”私のためにケンカをしないで”状態になっている。こんな話ではなかったはず」と首をかしげる。これまで有力視されてきた産業革新機構による支援案を押しのけ、突如、鴻海が”暫定一位”の座に就いた背景には、シャープの経営を事実上握る、銀行の意向がある。

シャープが3月末に返済期限を迎える5100億円のシンジケートローンのほとんどは、みずほ銀行と三菱東京UFJ銀行からの融資だが、産業革新機構はシャープへの出資の条件として、シャープが抱える借金の一部棒引きを銀行に要求。ただ、2行は2015年6月、債務株式化(DES、デッド・エクイティ・スワップ)という形で、すでに2000億円の金融支援に応じており、追加支援には銀行の株主が納得のいく説明が必要となる。

債権を回収したい銀行側の意向

シャープの背後には、約5100億円の融資をした、みずほ銀行と三菱東京UFJ銀行の意思がある

一方、鴻海の場合、今週までに、出資総額を当初提案の5000億円から7000億円へ引き上げた、とされる。銀行にとっては、追加支援に迫られる可能性が低く、債権の回収可能性も高い、またとない提案だ。

「結局、銀行の”親方”は財務省。所管省庁を敵に回すことは避けても、経済合理性を優先、(産業革新機構を所管する)経済産業省を敵に回す、という選択はありうる」(政府関係者)という意見もある。ジャパンディスプレイとの統合で「日の丸液晶連合」を狙う産業革新機構の案を蹴り、鴻海の提案に土壇場で乗ったとしても、不思議ではない。

シャープに残された時間は1カ月だ。それまでに最終的なパートナーを選び、再出発することができるのか。もう間違いは許されない。

                        (撮影:今井康一)

田嶌 ななみ 東洋経済 記者

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たじま ななみ / Nanami Tajima

2013年、東洋経済入社。食品業界・電機業界の担当記者を経て、2017年10月より東洋経済オンライン編集部所属。

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