「NHKにはすべてがある。問題は組織運用と教育だ」−−日本放送協会会長 福地茂雄
--NHKは割と視聴率を気にしていますよね。
していないですよ。私はもっと気にしてもいいと思う。民放と同じように気にしたらNHKらしい番組はできないれども、視聴率というより、いいものをつくったらたくさんの人に見てもらおうという欲がないと。スポーツでも、マイナーならマイナーなりに、たとえば視聴率を10%とれるように、こんな番組つくったから見てくださいよ、と努力しなければつくった甲斐がない。たとえば営業の人たちが世帯を回りながら「こういう番組があるから見てください」といろいろな広報活動をして、いい番組を見てもらう。それがまた跳ね返ってくるのではないでしょうか。
--「篤姫」の視聴率が従来の大河ドラマから3割増えたら、不払いの人の割合が3割減るとか?
直接受信料との関係ではなくて、お客様満足度をどこまで上げられるかです。表面的な満足度だけを追ったら、民放局の満足度と同じになってしまいますからね。マイナーな視聴者の方にも満足してもらうという努力をしていかないと。
--いい番組をつくって、満足度が上がると、経営にはどんな形で跳ね返ってくるのでしょうか。
やっぱり受信料だと思います。それがないと、この経営はできない。しかも、テレビのない世帯からはおカネをとれないわけですから。今までの私の仕事のように、とにかく売り上げ増やしてこいというわけにはいかない。テレビを持っている方から受信料をきっちりいただくというのは上限のある仕事です。そういった面では厳しい仕事です。
--営業の立て直しが必要?
むしろ営業はかわいそうなんですよね。不祥事がなければ普通に(受信料収入)は上がっていくのに、不祥事が起こると積み木を崩したみたいにがたっと落ちてしまう。そういった繰り返しの中で、今一生懸命やっていると思います。また、NHKの番組というのは技術陣が支えている面も大きい。技術があるからいい番組ができる。縁の下の力持ちです。
--営業も努力している。技術もすばらしい。コンテンツもいいものがつくれることを証明している。それではいったい何が、NHKを窮地に追い込んでいるのでしょうか。
それがなかなかわからない。組織のどこに欠点があるのか、と言われても、組織のどこにも欠点がない。組織図を見ても、普通の会社と変わらない。どこかを見ておかしいところがわかれば直しています。
問題は組織の運用、組織間のコミュニケーションでしょう。組織というのは、組織図どおりのフォーマルな縦方向のもののほかに、横方向のインフォーマルなコミュニケーションが形作るものです。その縦軸と横軸が合って活性化につながる。
だから、横のコミュニケーションを促進するために、役員はすべての個室を廃止して、私も含めて全員大部屋にした。変化は現場からなんて言いますけれども、変化はまず上からやらないとダメです。それを見て今度は現場の局長クラスが「局長室もなくしたほうがいいですか」って(笑)。局長は局長同士、現場は現場同士で話したり、「廊下トンビ」にならないと。そういった横のコミュニケーションがないとダメ。
異動の問題もあるかもしれない。一つの世界だけにいて動かないのではなく、ほかの世界を見る必要がある。どこまでできるかわかりませんが、考えられるものはすべてやってみようと思います。そうした中で組織は活性化していくでしょう。