「NHKにはすべてがある。問題は組織運用と教育だ」−−日本放送協会会長 福地茂雄
年間7000億円以上の“売り上げ”を誇る日本最大の放送局NHK。だが、職員のインサイダー取引事件など相次ぐ不祥事に視聴者の信頼は低迷、受信料収入は伸び悩む。技術革新による通信と放送の融合も進行する中、経営改革は待ったなしだ。かつてアサヒビールを業界トップへ押し上げた「現場主義者」の福地茂雄会長は、伏魔殿とも呼ばれるこの一大組織をどう改革しようというのか。
NHKが再び窮地に立たされている。今年1月には職員によるインサイダー取引事件が発覚し、回復途上だった視聴者の信頼は低下。9月には昨年「具体案不足」と経営委員会に練り直しを要請された中期経営計画の再提出も控えており、受信料中心のビジネスモデルを維持する一方で、受信料の値下げや組織のスリム化等にも注目が集まる。
多チャンネル化や通信と放送の融合が進む中で、NHKはどう変わっていくべきか。今年1月25日に19年ぶりに民間出身の会長に就任した福地茂雄氏に聞いた。
--NHKは国民から受信料を徴収する一方、税金を払う義務もなく、日本郵政公社(現日本郵政�)のように余剰金を国庫に召し上げられるわけでもない。会長はこの特異な事業体をいったいどうとらえていますか。
大事なことは、日本の公共放送を担う組織として、視聴者に「さすがにNHKだな」と思っていただけるような、NHKしかできないコンテンツをつくり、提供できるかできないかということです。それができなかったらNHKはいらない。これから5年先、10年先に通信と放送の垣根が低くなっても、最後はコンテンツです。NHKはそこを評価されているのだから、それぞれのプラットフォームに合うコンテンツを出していくところに、これから先の存在意義があるのではないでしょうか。
--ビールの場合は飲みたい人が代金を払って飲むけれども、NHKの受信料は見ない人も払っている。どうやって納得させますか。
番組の見方の濃淡はあるかもしれませんが、NHKの番組をまったく見ないという方は本当にいるかどうか。NHKのすごさは全都道府県に現場を持っていることです。特に災害放送や報道においての現場力というのは、私も自分の目で確認してわかりました。こうした持ち味があるからこそ、7割を超えて受信料をお支払いいただけているのではないのでしょうか。これでもまだ不公平なので、支払っていただける比率を上げていかなければなりませんが。
--NHKのビジネスモデルは極めて特殊です。どう位置づけて受信料を払う国民に説明していくか。NHKを経営するうえでの原点は、やはりそこにあると思います。
確かにそうですね。国営放送でなく、民営放送でもない。視聴者から受信料をいただいているという点では民で成り立っている。ただ、税金と違ってNHKは所得に関係なく等しく、広くいただいているわけですから、それをかんがみた放送の内容を考えないといけない。国営放送だったら国の価値基準に従ったところでしか放送できませんからね。
--それを明確に再確認できれば、この特殊なモデルをいびつな存在としてではなく、むしろ報道や放送インフラを担う、リーズナブルな組織だと主張することもできる。
まだそこまではわかりません(笑)。ただ、不偏不党、編集権の自立、そしてあまねく(放送を行う)という考え方は浸透している、とNHKに入って感じた。それから、視聴率を気にせずにマイナーなスポーツも放送している。そうしたスポーツが放送されることで育って、メジャーになっていくこともあります。それも、NHKのミッションだと思っています。