「NHKにはすべてがある。問題は組織運用と教育だ」−−日本放送協会会長 福地茂雄
--社会的事件がいろいろありますが、とりわけインサイダー取引事件には唖然としました。
これはやっぱりいちばんショックだった。まさに倫理観の欠如です。公共放送とかではなくて、報道に携わる者の最も基本の部分ですからね。
3年前に不祥事以降、いろいろな手を打ってきた。コンプライアンス委員会や、倫理基準を作ったけれども、不祥事が後を絶たず、ここに来て、とことん倫理観が欠けたドデカいことが起こった。形だけ作って心が入っていなかったのです。
昔は親が子どもに、モノを大事にしなさいとか、歯を磨くときには水道の蛇口を閉めなさいと、口が酸っぱくなるほど言っていた。あれが根付くと、後は言わなくても、ご飯食べるときには「いただきます」、人に会ったときには「おはようございます」と言うようになる。それと同じことで、根負けしないようにしないといけません。
--そういう「しつけ」を根本からやり直さないといけないという危機感がある。
何かをポンっとやってできるものではない。たとえば、受信料のありがたみを知るには研修しかない。だから、これまで1週間だけだった新入職員の現場の研修を、今年は1カ月やらせろ、と言った。1カ月受信料をもらって歩けば、受信料のありがたみ、重みがわかる。それはやっぱり現場で教えないと。
--局長クラスも受信料徴収の研修をやらせてみたらどうですか。
いいかもしれないね(笑)。
--福地さんの言われる職員の意識改革とは、中期経営計画の中で書き込まれて出てくるようなものではなく、日々の「改善活動」のようなものだと考えていいですか。
現場を知るというのは当たり前のことですからね。ただ、現場を知っていると錯覚するのは違う。私はいつも「現場から上がって6カ月経ったら現場のことは忘れたと思え」と言っていた。ホワイトカラーの仕事をしていると、気づかないうちに現場感覚を失う。だから、現場で研修することがとても大事なのです。
(山崎豪敏、倉沢美左 撮影:今井康一=週刊東洋経済)
ふくち・しげお
1957年長崎大学経済学部卒、アサヒビール入社。営業部長や大阪支社長などを経て99年社長、2002年会長、06年相談役に就任。07年4月メセナ協議会理事長、11月東京芸術劇場館長。08年1月から現職。福岡県出身。
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