高橋は、市場を合わせず「市場を引き寄せる」という大胆な方法で、ユーザーに受け入れられるロボットを作ってきた。「故スティーブ・ジョブスが言うように、人は自分のほしいものを知らない。手にしてみないとわからないと思う。市場調査をするような受け身の作り方は絶対にしない」と断言する。
とはいえ、自分一人の独断で開発を進めた先に、市場はあるのかという素朴な疑問が残る。自分の好きを突き詰めても、そこに市場がなかったという技術は山ほどある。しかし、高橋は「人のいうことを聞き続けた結果、誰もほしくないものができ続けている。頭のいい人が集まって、議論を重ねた結果が、誰か見ても間違っているものになりがち」という構造の問題点を指摘する。偏っていても、一人が信じたまま突き進んだほうが、まともなものができると考えているのだ。
「私はロボットを実際に作って、それを世に問う。しかし『このロボットが好きですか?』とか『どんな機能が欲しいですか?』などと聞いてはいけない。そうじゃなく、ユーザーを観察している中で、ここが受け入れられたなとか、ここがダメだなとか、あくまで事象としてとらえて自分で結論を出す。あくまで事象を見た上で、自分で先を読んで判断して行動する。ユーザーのリアクション、つまりいちばん生のデータを見て、その先は自分で。最後は、自分の感性と価値観を信じます」
「ただ好きだから」ロボットを作る
そう語る高橋にロボットを作る理由を尋ねたところ、高橋は「ただ好きだから」とだけ答えた。
「自分が好きなことを、自分の感性で判断して、少なくとも自分がほしいものをつくっていく。そうすれば、まずは自分がほしいものはできるし、結果的に数人か何億人はわからないが、自分と同じ感性を持っている人が受け入れてくれる」
こう言われると、独断の先に結果的にヒットが生まれたと片付けてしまいそうだが、高橋はそんな偶然に賭けるタイプではない。むしろ好きなことを実現するために誰よりも真剣に市場と対峙している。ただ多くの企業と違うのが、市場に合わせに行くのではないことだ。高橋のロボットに、市場のほうがまるで引力が働いているかのように引き寄せられる緻密な仕掛けを張り巡らせている。
「ユーザーは慎重だし保守的。自分のビジョンをどう理解して近づいてきてもらうか、その戦略を立てなければならない。お掃除ロボのルンバなんてうまいなあと思いますよ。当時から国内メーカーも作っていたが、売り出せなかった。なぜかというと、市場調査してみると得体の知れない掃除ロボットに10万円を支払う人はいないということが分かったからです。
一方、ルンバを手掛けるiRobot(アイロボット)は、はじめは玩具として簡易版のルンバを売り出した。安価なクリスマスプレゼントして、いわばジョークグッズ的に売り始めた。実用性には期待せず、ただ面白いと買ってみると、『こいつ、ちゃんと掃除できるやん』となった。そうやってユーザーがその可能性に気づいたときに、より高価な本格的な機種を売り出して成功した。それはすごく賢い戦略だと思う」
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