なぜ公害・薬害を繰り返す、医学界の暗部を告発する

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2~3年で担当が替わる官僚には、リスクを負って前任者の政策を変更する動機はなく、過去の過ちは延々と継承されていく。「太平洋戦争のインパール作戦(最初からむちゃな作戦と指摘されながら強行して歴史的敗北を喫した)のときと同じ。何もしないことが日本の政府の特徴のようだ」と津田はため息をつく。

そもそも疫学がここまで認知されていない理由は、日本の医学部教育にある。いまだ動物実験が中心で、人間を対象とした科学である疫学を教える場は非常に少ないからだ。

「日本で薬害事件が絶えないのはそのため」。そう言う津田が今、危ないと感じている一つが、新型インフルエンザに有効とされる治療薬「タミフル」だ。

タミフルを服用した10歳代の患者の中に、飛び降りて死亡するという異常行動の症例がいくつかあり、横浜市立大学教授を班長とした研究結果が発表されたのは2006年10月。このとき「タミフルと異常行動の因果関係はわからない」と発表されたが、この班長は疫学とは無縁。「実際に研究結果を見れば、タミフル服用初日に関しては異常行動を起こす確率は4倍以上と、因果関係はあると判断するに十分だった」と津田は語る。

この班長ら研究班の数人はその後、タミフルの輸入販売元の中外製薬から多額の寄付を受けていたことが判明し、研究班からはずされたのは記憶に新しい。

翌07年12月、別の大学教授が研究代表者を務め、17歳以下の患者1万人を対象とした2回目の疫学調査を発表した。しかしここでも、結論は「因果関係はわからない」だった。

「この2度目の調査結果も単純な計算ミスであることが判明している。私たちが計算し直すと、タミフルと異常行動には関連がある。その論文が近く国際医学誌に掲載される予定だ。そもそも両方の研究とも、医学者が主体のものであるにもかかわらず、厚生労働省の記者クラブで官僚が発表したのも変な話です」

津田は決してタミフルの存在すべてを否定しているわけではない。「その反対。新型インフルエンザが発生したとき、みんなが使う可能性のある治療薬だからこそ、しっかりと調査すべきなんです」。現状を見るかぎり、疫学を無視したために起こった過去の悲劇は何も生かされない。その危機感が今日も津田を研究調査に走らせている。(=敬称略)

(週刊東洋経済)

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