フィンテックは、銀行再編を促進させるのか 決済インフラ改革の必要性を問う

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一方、海外の個人決済では、たとえば“24時間365日”稼働している決済インフラもある。英国では、すでに24時間365日の振り込みが可能な決済システム「FPS(Faster Payment Service:ファスター・ペイメント・サービス)」が導入されている。そもそも日本の国内振り込みを司る「全銀システム」にあたる「BACS(Bankers Automated Clearing Services:バックス)」があったが、最終の決済まで3日かかり、さすがに全銀システムのように当日決済にすべく検討されたものの、非常に困難であった。そこで新しい決済システムを構築しようとしたのが、このFPSなのである。

深夜の振り込みニーズは本当にあるのか

日本でも、このFPSをお手本にして、2018年中に24時間365日振り込みが可能な新決済インフラ「モアタイムシステム」が導入される。これで全銀システムの稼働時間(8時30分から15時30分)以外の部分をカバーする。これにより24時間365日振り込みが可能になるが、莫大な開発コストを銀行界が負担する。

しかしながら、特に個人の分野で、深夜の振り込みニーズがあるのだろうか。筆者自身の個人の振り込みを考えても、ほとんど必要ない。

そもそも個人の振り込みというか決済は、公共料金は口座振替かクレジットカード払いだし、ネットでの購入はクレジットカードを使う。日本で普及しているクレジットカードは、すでに24時間365日使える。しかも深夜となると振り込みのニーズは思い浮かばない。そもそも、会社は営業していない。

深夜のニーズの事例として説明されるのが「東京の大学に進学し下宿している子供に、深夜に送金する」というものである。これはどういうケースなのだろうか。深夜に現金が必要なのだろうか。現金はコンビニATMで下せるし、そもそも、深夜に現金が必要になるケースがわからない。

決済インフラには莫大なコストがかかる。それはある意味、インフラということだけあって、公共投資と同じ性質を持つ。インフラの検討で大事なのでは「本当に使われるか」ということである。深夜の振り込み件数が多数あればいいのだが、そうはならないだろう。

フィンテックが銀行再編の引き金になる?

24時間365日の決済インフラは、タダであるはずがない。今回、そのコストは銀行界が負担する。このモアタイムシステムへの参加も希望制にしようとしたが、結果的にほとんどの金融機関が参加することになった。そして、銀行が負担するコストは、最終的には銀行の顧客が負うことになる。深夜の振り込みをする顧客はどのぐらいいるのであろうか。

大きなコスト負担は、銀行経営に負担を与える。株主への説明も必要かもしれないし、株主の理解を得られないかもしれない。

現在、地方銀行を中心に日本の銀行は合併が進んでいる。その主たる目的のひとつは「コスト削減」である。さらに言えば、この決済インフラのコスト負担のために、合併をさらに進める可能性も否定できない。差別化しがたい「国内振り込み分野」を強みとする地方銀行があるとも思えない。

逆に本当に日本に必要なインフラであったら、道路や橋と同様に、金融当局によってインフラとして税金が投入されてもいいとも考えられないだろうか。

宿輪 純一 帝京大学経済学部教授・博士(経済学)

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しゅくわ じゅんいち / Junichi Shukuwa

帝京大学経済学部教授・博士(経済学)。1963年生まれ。麻布高校・慶應義塾大学経済学部卒。富士銀行、三和銀行、三菱東京UFJ銀行を経て、2015年より現職。2003年から兼務で東大大学院、早大、慶大等で非常勤講師。財務省・金融庁・経産省・外務省、全銀協等の委員会参加。主な著書に『通貨経済学入門(第2版)』『アジア金融システムの経済学』(日本経済新聞出版社)、『決済インフラ入門〔2020年版〕』(東洋経済新報社)、『円安vs.円高(新版)』『決済システムのすべて(第3版)』『証券決済システムのすべて(第2版)』『金融が支える日本経済』(共著:東洋経済新報社)などがある。

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