もっとも、米欧などにとってよいことばかりではない。核開発問題が解決し、シリアに強い影響力を持つイランがIS問題の解決においても力強い援軍となることが期待される中で、イランとサウジアラビアの対立が始まった。きっかけとなったのは、サウジで死刑判決を受けていたシーア派の指導者ニムル師の刑執行であり、それから両国は激しく対立し断交にまでエスカレートした。
サウジはほかの湾岸諸国とともにISに対する空爆に最初から参加していた。米国にとっては、この貴重な同盟国にイランという新しい援軍が加わろうとしたのに、サウジとイランの間で仲たがいが始まったので、IS対策におけるイランの貢献は期待どおりにいかない恐れが出てきた。
そのような曲折はあるが、イランの核問題の解決をきっかけにイランに対する信頼感が回復していけば、第一次大戦以来の中東の最大懸案であったイスラエルとパレスチナをめぐる中東和平問題にも好影響が及ぶだろう。
前述したように、イスラエルは現在、イランを信用していない。イスラエルがイランを信用できるようになるにはさらに長い道のりが必要だろうが、決して不可能なことでない。
イスラム革命以前、イランはイスラエルと外交関係に準じた密接な関係があり、貿易なども盛んで、両国は共同でミサイルを開発しようとしたこともあった。イランとイスラエルは根からの敵同士ではないのだ。
また、イランだけでなく、イスラエルの側にも変化する可能性はある。イスラエルの指導者はネタニヤフ首相のような強硬派ばかりでない。
将来のことだが、核問題の解決がイスラエルとイランの和解につながっていけば、それこそ中東の秩序に構造的変化が生じるだろう。
日本はどう動くべきか
本稿では政治面での変化を見てきたが、核問題の解決と制裁の解除は経済面でも巨大な効果をもたらす。石油の大消費国である日本にとっても今回の発表の意義は大きい。日本はかつてイラン石油の主要輸入国であったが、制裁をかけている間にイランとの経済関係はかなり後退した。
今般の核問題の解決を機に、日本政府は22日、イランに対する制裁の解除を決定した。今後日本としてはイランとの関係を再構築していくことになる。
おりしも中国の習近平中国主席は1月19日からのサウジ、エジプト、イランを歴訪し、巨額の借款供与や原発輸出を発表して世界の注目を浴びている。中国は中東への進出を強めようとしており、パレスチナの問題に関しては包括的な和平案を提示済みだ。
このような中国の積極姿勢は米国にとって歓迎すべきものか。また、イランと西側との信頼関係回復に役立つか。今後の展開次第だろうが、日本としてはそのようなことも含め中東世界の秩序が大きく変化する可能性に注意を払っていく必要がある。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら