『隅田川の向う側』を書いた半藤一利氏(歴史探偵・戦史研究家)に聞く

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--大学ボート部がテーマの第3章は中でも生き生きしています。

いちばん力を込めて書いたのはそのボートの話。これはイロハ順でなくても書けた。このときは大学3年の負けた話になっているが、翌年に全日本選手権で優勝している。そのときのクルーは今もみな健在だ。私は60代半ばまで現役でOB戦でオールを握った。

--ベストセラーになった『昭和史』、『幕末史』は、ともに「講義録」でした。最近は、口述モノが多いですね。

私はしゃべったもののほうがいいといわれる。書くと細かいところに拘泥し、どうしても入れ込んでしまう。たとえば幕末史でも、いずれ攘夷でなくなると納得して薩摩、長州も変わるが、藩としては相当な相克があったはず。「西郷は毛沢東と同じ」とか、「龍馬には独創的なものはない」などと書けたのも、しゃべったものだから割り切れた。

--しばらく書き下ろしはひと休みですか。

『15歳の東京大空襲』の出版は来年になる。これから夏にかけてどかどか出るのは、対談形式、座談形式のもの。取りあえずは、『繪本三國志』を出した安野光雅さんとの『対談三国志』(仮題)。脱線が多いが、安野さんの展覧会で三国志を一席ぶったら、『昭和史』の編集者がこの企画を思いついた。

それに『東京裁判』(仮題)。いままで眠っていた膨大な弁護側資料、検察側資料を3人で読み解く。さらに『占領下の日本』(仮題)もある。何年もかかったが、ようやく出版の軌道に乗って、座談会出席者の4人が原稿に納得したようだ。まだ初稿ゲラは出てこないが。

(聞き手・塚田紀史 =週刊東洋経済)

はんどう・かずとし
1930年東京向島生まれ。東京大学文学部卒業後、文藝春秋に入社。『週刊文春』『文藝春秋』編集長、取締役などを経て作家。『漱石先生ぞな、もし』で新田次郎文学賞、『ノモンハンの夏』で山本七平賞、『昭和史1926‐1945』『昭和史 戦後篇1945‐1989』で毎日出版文化賞特別賞を受賞。


創元社 1575円

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