苦境企業が積極的に活用、広がる動産担保融資とは
一方、借り手にとって商品は企業の生命線。ひとたび担保権が行使されれば企業活動が止まるという危機感が強い。このため「担保権実行の可能性は、債務不履行の抑止力として機能しているのが実態」(ゴードン・ブラザーズ・ジャパンの金城亜紀社長)で、米国では債務不履行と担保換価まで進む例は全体の1%程度にとどまっている。
担保品は日々の生産や入出荷を受けて量や内容が変化するため、貸し手は倉庫や店頭など一定の保管場所にある物全体を担保登記した上で、定期的に変化を把握する必要がある。担保品の急減は経営状況の悪化を示す場合が多いが、その段階で借り手と返済計画の見直しなどを協議すればトラブルを回避できる。しかしABLの特徴や運用手法について借り手・貸し手の認識が不足すれば、悲劇も招きかねない。典型例がパソコン販売老舗の九十九(つくも)電機だ。
融資2カ月後に破綻 九十九電機の悲劇
昨年11月下旬、店舗前で事件は起こった。何台ものトラックが横付けされ、運送業者が梱包されたパソコンなどを次々と搬出。九十九にABLで約6億円を貸し付けていたNECリース(現NECキャピタルソリューション)が、担保品の保全に踏み切ったためだった。
NECリースは昨年8月、九十九の調達拡大に向けた運転資金として、物流拠点と店頭の商品を担保に融資を行った。だがわずか2カ月後の10月末、九十九は民事再生法の適用を申請して経営破綻。NECリースにとっては寝耳に水だったうえ、申請後も九十九は商品販売を継続した。これに対し「担保が大幅に毀損した」との理由から、NECリースは裁判所に占有移転禁止(係争対象となる物品が転々とする状態の中断)の仮処分を申請し、担保保全を断行する顛末となった。
大半の商品が運び出されたことで九十九は数日間の営業停止をやむなくされたが、取引のある電機メーカーや金融関係者の間では、「九十九に担保権が実行されるという危機感があれば、NECリースとの交渉で最悪の事態は回避できたはずだ」と見る向きが少なくない。またNECリースについても、担保や九十九の経営状況の変化を把握するべく万全な対策を講じていたか疑問が残る。
苦境企業にとってABLはまさに光明だが、在庫がカネに変わる錬金術では決してない。本格的な普及には、借り手・貸手双方の理解が不可欠となりそうだ。
(杉本りうこ 撮影:尾形文繁 =週刊東洋経済)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら