日本は、台湾の新政権とどう付き合うべきか これから中台関係は大きく変化していく

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今後、台湾人としての意識がさらに高まり、民進党の政治的立場が強まると台湾独立を求める要求が強くなる。国際機関への加入が認められるべきだという主張も強くなるだろう。

台湾人意識の強い若者は、中国との関係について理解が不足がちであり、極端に走りがちだ。国民党でも民進党でもない、いわゆる「第3勢力」も台頭しつつあり、これまでのような国民党か民進党かという状況も変わる兆しが出てきている。

一方、中国は国民党の敗北を目の当たりにして台湾に対する戦略を練り直しているだろう。今後蔡英文総統に対してどのような行動に出てくるか、未知数だ。

蔡英文新総統はこれらの複雑な要因を勘案して上手にかじ取りをしていかなければならないが、なかでも注意を要するのが台湾の安全保障だ。

米国にとって望ましいこととは?

米国にとってこれまでは台湾独立が最大の危険であったが、事態は複雑化し、米国にとって最も望ましいのは、台湾が独立に走ることを完全に止め、かつ、南シナ海に対する領有権主張を止め、さらに南シナ海に関して米国が進めている国際的連帯に台湾が加わることである。これは日本から見ても同じである。

蔡英文新総統が米国と完全に同調すると台湾の立場は堅固になる。しかし、そこまで舵を切れるか。南シナ海問題については、フィリピンの仲裁裁判への提訴に反対してきたことなど台湾として積み重ねてきたことがある。また、米国への接近は中国の不満を惹起する。

一方、中国は南沙諸島での拡張的行動を止めないだろう。そうなると、米中の対立がさらに激化し、台湾が南シナ海問題に関する国際的連帯への参加を米国から実際に求められることもありうる。かりにそうなった場合、日本としても台湾の新しい安全保障環境を勘案して対応することが必要となる。

矛盾に満ちた難問に直面する蔡英文新総統は、台湾にとって最適の安全保障戦略を再構築する必要に迫られている。

美根 慶樹 平和外交研究所代表

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みね よしき / Yoshiki Mine

1943年生まれ。東京大学卒業。外務省入省。ハーバード大学修士号(地域研究)。防衛庁国際担当参事官、在ユーゴスラビア(現在はセルビアとモンテネグロに分かれている)特命全権大使、地球環境問題担当大使、在軍縮代表部特命全権大使、アフガニスタン支援調整担当大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表を経て、東京大学教養学部非常勤講師、早稲田大学アジア研究機構客員教授、キヤノングローバル戦略研究所特別研究員などを歴任。

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