要介護認定の新方式で混乱、介護認定の軽度化で利用に支障のおそれ

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 「人工透析で排尿がまったくない場合、『全介助』にマルを付けるのは『誤った選択』であり、『自立(介助なし)』を選ぶのが正しい」

また「薬の内服」について、「自分勝手に薬を飲んだり飲まなかったりする場合」、「一部介助」を選択するのは誤りであり、「自立(介助なし)」を選ぶのが正しいとした。その理由を厚労省は「薬の理解を問う項目ではない」ためとしていた。

新テキストは昨年12月に自治体に配られた後、今年1月下旬から自治体が調査員向けに研修会を開催。テキストの改定内容を知った調査員から疑問の声が上がるとともに、介護を受けている高齢者や家族にその内容が伝わり、動揺が広がった。

厚労省は3月中旬に「自立」という表現を撤回。「介助されていない」に表現を改めたうえで、3月24日付で新テキストを配り直した。「そもそも能力の有無を問う設問でないのに、『自立』という言葉を用いたことが、大きな誤解を招いた」と鈴木課長は反省の弁を語る。

だが、厚労省の対応のまずさはそれだけではなかった。新テキストの原案は2年近く前に出来上がっており、新旧のテキストに基づく86人の利用者に対する検証事業が07年度に実施されていた。にもかかわらず、厚労省は検証事業を実施した事実や内容を国民に知らせず、08年3月に報告書が作られていたことを最近になって初めて明らかにした。

「新テキストを作るのに際して大半の自治体から意見を求めたが、利用者には今年1月30日のパブリックコメント募集まで、意見を聴くことをしなかった。その点も反省している」と鈴木課長は続ける。

厚労省はテキスト改定を含む、要介護認定の仕組みを大きく変更する理由として、自治体間のバラツキの是正とともに、要介護認定の精度向上や作業の効率化を進める必要性を挙げている。そのために、認定調査の質問項目を大幅に見直し、認知症に関する項目の削減などで従来の82項目から74項目に簡素化。と同時に、その内容も入れ替え、認定調査員や審査会メンバーのためのテキストも作り直した。また、一次判定結果を出すためのコンピュータソフトも全面的に刷新。審査会で議論するための資料も一新した。

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