苦悩する「賃貸住宅」進まない入退去、滞納増も 入居率は高いままだが、恩恵にあずれない

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仲介業者の収益源は、賃貸住宅への入居が成約した際の仲介手数料が柱だ。入居者が引っ越しをせずそのまま住み続けることを選択すれば、仲介業者の実入りは目減りする。仲介大手のセンチュリー21・ジャパンが4月に発表した2020年3月期決算では、新型コロナウイルスの影響で8%の営業減益に沈み、2021年3月期の業績予想も未定としている。

感染拡大の影響が長引けば、足元では安泰である賃貸住宅の家賃についても滞納が増加しかねない。日本賃貸住宅管理協会によれば、昨年4月~9月時点で2ヵ月以上家賃を滞納している割合は全国平均で1%。だが感染拡大が顕著になった今年3月以降、賃貸マンションを保有・運用する不動産会社からは、「入居者から家賃の支払い猶予や減免の依頼が来ている」という声が相次ぐ。

大東建託や大和ハウスは支払い猶予を実施

国は住居確保給付金など生活困窮者に対する家賃補助を打ち出しているが、民間ではすでに滞納や貸し倒れの増加に備える企業も出ている。大東建託は自社で一括借り上げを行っている物件の入居者を対象に、3ヵ月間分の家賃やガス料金の支払いを猶予する。大和ハウス工業も、入居者向けに家賃3ヵ月分の支払い猶予を発表。5月中旬時点で900件ほどの申込みが来ているという。

入居者が滞納した家賃を立て替える保証会社も、新型コロナウイルスの影響を身構える。日本賃貸住宅管理協会によれば、賃貸住宅のうち97%が家賃保証会社を利用しているが、家賃保証会社のジェイリースは、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて3月末時点での貸倒引当金を約5.5億円増加させた。

保証会社にとっては、入居時に支払う保証料も貴重な収入源。外出自粛により入退去の動きが抑制されれば、保証会社が新規の入居者から受け取る保証料も減る。また、対面での営業がはばかられる中、入居者に対して立て替えた家賃をどのように督促していくか、各社の債権回収ノウハウが問われそうだ。

コロナショックに直面した企業の最新動向を東洋経済記者がリポート。上の画像をクリックすると特集一覧にジャンプします

フリーランス向けに家賃保証を行うreaseの中道康徳代表は、「行政などからの支援はあるものの、6月以降から家賃の支払い猶予や滞納が発生するのではないか。仕事が不安定なフリーランスの中には、滞納を起こす前に自ら家賃の安い住宅へと転居する動きも出ている」と話す。

首都圏では緊急事態宣言がようやく解除されたが、経済活動はしばらく様子見モード。体力の乏しい地場の賃貸仲介会社の中には、「仲介手数料の減少から資金繰りに窮している業者もいる」(中道氏)など、賃貸住宅業界にとって気を揉む状況が続く。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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