「地震は予知できない」という事実を直視せよ

国の地震予測地図はまったくアテにならない

1965年にスタートした国の予知計画の考え方は、地震発生の理論が十分解明されていないにもかかわらず、観測データさえ取れば“顕著な前兆現象”が見つかるだろう、という楽観論に立脚するものだった。予知計画以前にも80年以上にわたり予知研究を行っていたが、誰も前兆現象を見つけていなかったという事実にも関わらずだ。

物理の常識を忘れたことが敗因

予知計画は物理学の常識から逸脱した発想だった。常識ある研究の進め方は、まず、現象(地震発生)を理解して(これが基礎研究である)、その上で応用(地震予知)へ進むことだ。なぜ国とその審議会委員が基礎研究を省略して、いきなり応用を目指そうとしたのかは本当に理解しがたい。ある種の群集心理的現象としかいえない。結局、この現象論的予知研究は科学的成果を何一つとして上げることなく半世紀もの時間を費やしてしまった。

予知計画はフェードアウトしつつあるが、そもそも予知は不可能かどうかとの課題が残る。いうまでもなく、何か(タイム・マシーン、不老不死剤の開発など)が不可能と証明すること自体はほとんど不可能だ。筆者としては、地震発生というものは非常に複雑な非線型現象で、地球内部の詳細な応力分布などに敏感であり、予知することはできるはずがないと考えている。

また、これまで130年以上にわたり研究、観測を行ってきたので、地震学の基礎研究や観測技術に飛躍的な進展があったのは事実だが、それにもかかわらず予知が今まで一度もできていないことは悲観論の根拠となるだろうが、これによって不可能との証明にならない。しかし、予知が不可能と完全に証明されていないことと、予知研究に予算を与えるべきことは全く別だ。

予知研究をしたい研究者がいるとすれば、他分野と同様に、その研究者はこれまでの研究成果及び今後期待される成果をまとめて説得力を有する研究計画を申請して、審査を受けるべきだ。審査に合格した場合、筆者は採択には異存ないが、「予知研究」だからといって優遇は一切すべきではない。

前述の“外れマップ”という失敗の原因も物理学の基礎中の基礎を無視したことにあるといえる。マップ作成の予測モデルは、固有地震説、すなわち地震が繰り返し、やや周期的に発生するという説だが、これは未だに科学的には検証されていない。

一般にどの学問分野においても未検証の予測モデルが間違った予測値を与えることはよくあるし、特に驚くべきものではないが、驚くべきは、地震予知に関しては国と審議会委員がこのモデルの検証を全く行わないまま、いきなり国の地震対策の中核部分として採択したことである。

結局、これまで50年にわたる国の地震対策(1965~1995年の予知計画、1995年~現在の調査研究)は、物理学の常識からかけ離れており、当然のことながら科学的根拠もなく、ハザード・マップが示す通り失敗である。予知幻想に依存する体制を白紙に戻し、ゼロベースから地震対策を見直すべきだ。

同時に、政治とマスコミも反省すべき点は少なくない。結局政治は防災利権を食い物にしたとのそしりを免れないだろう。またマスコミも、御用地震学者から得た情報を十分な裏を取らずに垂れ流していることが多い。新潟県中越地震、東日本大震災、熊本地震などが示したように、日本は地震国であり、いつでもどこでも地震は起こりうる。日本に住む者ならば誰でも、当面の地震対策として「想定外」を想定しておくしかない。  

(写真は熊本県益城町で被災した山下弘幸氏提供)

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