迷走する「東京五輪」とロンドンの決定的な差 "女王を上空に飛ばす"など、衝撃演出の真意

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そのひとつの例が馬術会場です。馬術会場の敷地は、世界遺産でもあるグリニッジ天文台王立公園が選ばれました。高台に設置された馬術クロスカントリーコースの障害物を飛び越える人馬の後ろ姿は、その先に広がるロンドンの街に向かって飛んでいるように見えました。

そしてその映像は、現地の観客だけでなく、世界中のテレビスクリーンに映し出されるわけです。その手法はまさに、観客の注目を集めるために“見得を切った”とも言えるものです。

ロンドンの美しい街並みも貴重な観光資源であると理解し、五輪期間中、それらを借景としたテレビ画面の映像美は、壮大な“観光案内番組”として世界中に発信されました。

見せるのは競技場ではなく、選手の躍動と、その肩越しに映る街並み。だからこそ、競技場自体は、最低限度の簡素な造りでよいという割り切りがあったわけです。

女王をボンドガールとして飛ばす演出

開会式の演出も趣向を凝らしていました。

馬術の障害物。ここを超える人馬はまるで、街の中へ向かって飛ぶように見えた

エリザベス女王を“ボンドガール”としてメーンスタジアム上空から飛ばし(もちろんスタントマン)、聖火リレーの最終ランナーには無名の10代のアスリートたちを起用。「今の世代だけでなく、次世代と一緒に造り上げるサスティナブル(持続可能)な五輪」というメッセージを世界に投げかけました。

見せたかったのはエンターテイメントであり、競技場はそこに寄り添うものでしかないという考え方です。そのための簡素化。そのための仮設であったわけです。そこには、仮設にすることによる多少の不便さには目をつむろうという割り切りもありました。

“簡素な競技場でいい”という考え方は、女王様をボンドガールとして飛ばす発想力や、自国・イギリス人選手が金メダルを獲得するなど競技上の成果もあって、始めて完結するストーリーでした。

大会前には“簡素で貧相”にしか見えなかった競技場は、数々の名場面と共に“簡素で清楚”な舞台として人々の記憶に刻まれ、600億円以上の価値を生み出したのです。

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