「少女像撤去」を合意前進の"踏み絵"にするな 韓国政府の反対派説得を温かく見守るべき

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今回の合意を達成するのに日本政府が大きな譲歩をしたという見方があるようだが、両政府とも大きな努力を払った。

日本側が「アジア女性基金」の際より踏み込んだ決断したことは前述したが、韓国政府は慰安婦のために基金を新設すること(「アジア女性基金」は日本の基金であった)、国際的な場で日韓がお互いに非難・批判しあうことはしないことを日本政府と約束することに踏み切った。

これまでのように、日本政府に善処を求めるだけ、いわば評論家的な立場であったのと違って、慰安婦問題の解決のために自らもかかわり努力するという、いわば当事者の一人となった。しかも、日本政府を批判する側から日本政府とともに解決に努める側に変わるという、大きな方針転換をしたのだ。これは慰安婦問題を最終的に解決すると合意したことに勝るとも劣らない重要なことであり、韓国政府の決断は称賛に値する。

これほど重要な決断は両外相だけでできることではない。昨年11月の安倍首相と朴槿恵大統領との首脳会談で「交渉を加速する」との合意をした際に、両者の間で非常に突っ込んだ話し合いを行った結果だと思う。今回の合意は両国間で首脳同士が率直に話し合うことの重要性を示唆しており、今後のカギとなる前例となるだろう。

ただ、まだ課題は山積みだ。慰安婦問題を最終的に解決することが日韓両政府間で合意されても、「すでに解決された」と過去形で言える状態になったわけではない。韓国政府が新しい基金を設立し、そこに日本政府が拠出する、という事務的な手続きが残っているだけでなく、ソウルの日本大使館前に設置されている少女像の撤去も重要なハードルになる。

最大のネックは、元慰安婦と彼女たちを支援している団体、とくに韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)が今回の合意に反対していることだ。韓国政府はすでに説得を始めているが、まだ納得は得られていない。これらの人たちは少女像の撤去にも反対している。

少女像撤去についての発言は慎重に

これに呼応して、「少女像を撤去しなければ日本側は新基金への拠出を控える」などということを日本政府が言明してしまえば、反対派の思うつぼにはまることになる。もしこの問題がこじれて今回の合意が崩壊すれば、喜ぶのは合意反対派の人たちだ。合意後の韓国政府の立場を誤解してはならない。日本政府が拠出しないなどということは、反対派の説得を懸命に行っている今の韓国政府の足を引っ張ることになるのだ。

また、国連の人権理事会など国際的な場でどのような展開になるかも不透明だ。慰安婦問題に関心を持っている国は少なくない。挺対協による国際的なアピールは従来から非常に激しかった。

米国政府は今回の合意を歓迎し、支持し、関係者の説得にも努めている。力強い味方になってくれているのだが、力づくで一気に進むようなものでもない。日韓両政府は今後とも忍耐強く誠意をもって対応していかなければならない。とくに少女像という象徴的なものの撤去をイエスかノーか、の踏み絵として扱うことは避けなければならないだろう。

美根 慶樹 平和外交研究所代表

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みね よしき / Yoshiki Mine

1943年生まれ。東京大学卒業。外務省入省。ハーバード大学修士号(地域研究)。防衛庁国際担当参事官、在ユーゴスラビア(現在はセルビアとモンテネグロに分かれている)特命全権大使、地球環境問題担当大使、在軍縮代表部特命全権大使、アフガニスタン支援調整担当大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表を経て、東京大学教養学部非常勤講師、早稲田大学アジア研究機構客員教授、キヤノングローバル戦略研究所特別研究員などを歴任。

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