(第5話)舞妓さんの「間違いから学ぶ姿勢」を育てる言葉

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●言い訳して隠そうとしたら、もう1つ大きな嘘をつかんとあかんようになる

 舞妓さんは、先輩の芸舞妓さん、お茶屋や置屋のお母さんに道で出会ったときは、立ち止まって挨拶をし、相手が通りすぎるまでその場で見送るのがルールです。それができないと、「挨拶もちゃんとできひん舞妓はんは、困りますなあ」と、彼女を育てている置屋のお母さんにお小言が届きます。

先輩の芸妓さんに挨拶が遅れた舞妓さんが「お母さん、すんまへんどした。○○さん姉さんに気ぃつかんと、ご挨拶が遅なってしもうて。途中で一緒になった△△ちゃんが、お三味線のお稽古のこと聞いてきゃはったさかいに……」と、女紅場(芸舞妓さんが通う学校)に行く道すがら、一緒になった他の舞妓さんにも責任があるような説明をしました。

その一言を聞いた途端、置屋のお母さんは厳しい口調になりました。「△△ちゃんと一緒に、姉さんにご挨拶をしたらええんやないの。自分の支度が遅なって、気が急いてたさかいに、お姉さんに気ぃがつかんと、当たり前ことができひんかったんやろぅ。都合の悪いことを言い訳して隠そうとしたら、その嘘を隠すために、またもう1つ大きな嘘をつかんとあかんようになるんえ」と、新人の舞妓さんをピシャリとたしなめました。

お母さんは、舞妓さんが自分のミスを責任転嫁して説明したことを咎めているだけではありません。もし、自己正当化の言い訳がスッと通れば、それを周囲に信じてもらうために、その場しのぎの嘘を次々重ねてしまうこと、その危うさを教えています。お母さんは、舞妓さんの将来に影を落とすような芽に気が付き、小さいうちにすぐに摘み取ろうとしたのです。

お座敷の現場で、自分の不手際を他の芸舞妓さんのせいにして、チームリーダーの芸妓さんに報告するような舞妓さんは、周囲から好かれるでしょうか。そんな舞妓さんが、チームの連携をスムーズにするための情報を、きちんとメンバーからもらえるでしょうか。

チームプレーを乱すような周囲からの信頼感の乏しい新人さんは、居場所がなくなってしまいます。そして、信頼はすぐには回復しません。しかし、仕事の失敗の原因がスキルの未熟さなら、努力で周囲の信頼を得ることが可能です。今後の伸びしろを考慮され見守ってもらうための「時間」という資源を、周囲から預けられるようになることが大事なのです。

芸妓さん:道をゆく芸妓さん。向こうには京都らしい五重塔が見える。

 

西尾久美子(にしお・くみこ)
京都女子大学現代社会学部准教授
京都市下京区で数代続いた米穀商の家に生まれる。京都府立大学女子短期大学部卒業後、大阪ガス株式会社勤務、滋賀大学経済学部を経て、2006年3月神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。同年4月より神戸大学大学院経営学研究科助手、同年10月より神戸大学大学院経営学研究科COE研究員、2008年4月より現職。専門は経営組織論、キャリア論。
著書に『京都花街の経営学』(東洋経済新報社、2007年)がある。

 

西尾 久美子 京都女子大学現代社会学部准教授

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にしお くみこ / Kumiko Nishio


京都女子大学現代社会学部准教授
京都市下京区で数代続いた米穀商の家に生まれる。京都府立大学女子短期大学部卒業後、大阪ガス株式会社勤務、滋賀大学経済学部を経て、2006年3月神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期修了、博士(経営学)。神戸大学大学院経営学研究科助手、神戸大学大学院経営学研究科COE研究員を経て、2008年 4月より現職。専門は経営組織論、キャリア論。
著書に『京都花街の経営学』(東洋経済新報社、2007年)、『舞妓の言葉』(東洋経済新報社、2012年)などがある。

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