南氷洋での調査捕鯨は、百害あって一利なし オーストラリアとの同盟強化のほうが重要

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今回の共同声明でターンブル首相は日本の捕鯨に対し、苦言を呈した。現在、日本が目指している南氷洋での調査捕鯨再開を考えなおしてくれというものだ。

これは小さな問題に見えるかもしれない。捕鯨に言及しない報道もあった。実際に中国との対峙、日豪の安保協力といった大局からすれば些細な問題のようにもみえるだろう。

だが、調査捕鯨は、両国間での対立・衝突を引き起こしかねない要素でもある。オーストラリアの国民感情を刺激し、仮に爆発した場合、オーストラリア政府は日本に対し強硬な態度をとらなければならなくなってしまうためだ。

国民感情を逆撫でしている

これまで、南氷洋での調査捕鯨はオーストラリアの国民感情を逆撫でしてきた。彼らの感覚からすれば地先の南氷洋は自分たちの海である。いくらEEZ(排他的経済水域:200マイル)の外だとしても、そこで自分たちが大事にしているクジラを殺せば怒るのは当然だろう。

これは日本の場合に置き換えれば納得しやすい。仮に、小笠原EEZのすぐ外側で中国が調査捕鯨をしたらどうなるだろうか。多くの日本人が激怒するのではないか。それがEEZの外であっても、合法的行為であっても納得できるものではないのだ。実際に公海上での中台サンマ漁船による乱獲や、日中漁業協定で認めているはずの日本EEZ内での合法的漁労に対しても、日本人はナショナリズムをこじらせて怒っている。

オーストラリアの国民感情が吹き上がれば、日豪関係は悪化し、収拾がつかなくなるリスクもある。調査捕鯨が再開され、何かの拍子でクジラが血を流し殺される映像が出ればどうなるか。そのインパクトはオーストラリアにとって中国の脅威どころではない。遠い南シナ海で中国軍艦が大きな顔をするよりも、目の前の南氷洋で自分たちの鯨を虐殺される映像の方が強烈である。

その場合、豪政府は対抗措置を取らざるを得ない。そうしないと弱腰と言われ政権は持たないためだ。これに対し、日本は妥協で事態収拾を計れない。これまでの経緯から、日本人は捕鯨を権利だと信じ込んでいる。そのため日本政府も国民感情への配慮から妥協的態度はとれないだろう。結果、日豪は全面対決となるだろう。こうなれば、安全保障での協力深化どころではなくなってしまう。

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