南氷洋での調査捕鯨は、百害あって一利なし オーストラリアとの同盟強化のほうが重要
はたして、そこまでのリスクを犯して南氷洋における捕鯨を続けなければならないのだろうか。経済的な観点から冷静に見る必要がある。
まず重要な点は、「商業捕鯨」を再開する見込みが立っているわけではないという点だ。調査捕鯨は商業捕鯨再開のために行っている、とされているのだが、その調査捕鯨を行っているだけでも日本は世界の多くの国の敵となっている。その先にさらに大規模な捕鯨を実現できるだろうか。
また国内において鯨肉の需要も非常に小さい。戦後の食糧難のころとは異なり、日本において食肉の入手は容易だ。安く嗜好にあった牛豚羊は市場にあふれている。鯨肉は一部の部位が珍重されているだけだ。
そのため調査捕鯨は事業としての継続も難しくなっている。調査捕鯨は鯨肉販売の利潤を前提としている。だが鯨肉は売れ残っており、仮に全部売れても捕鯨費用はまかなえない。
その詳細は以下のとおりだ。
鯨肉は相当量が売れ残っている
南氷洋調査捕鯨で採捕されるのはほぼミンククジラであるが、その販売実績をみると一部の部位は4回入札しても捌けていない。最後回をみると「落札なし」「応札なし」である。前者は最低価格に達せず、後者は入札そのものがなかったことを示すものだ。
これらの売れ残りはおそらくは加工肉にもできない。不良在庫として積み上げるか、動物性飼料とするか、廃棄するかしかない。
また、その鯨肉の収益も捕鯨をまかなえる金額とはほど遠い。調査捕鯨は南氷洋捕鯨に専従する共同船舶が実施している。同社はそのために船員170名を擁しているが、おそらくは人件費だけでも年34億円(『海運経営』<日本船主協会,2014年>によると日本人外航船員の平均人員コストは年2000万円)を必要とする。
だが鯨肉収入ではその金額は賄えない。一回の南氷洋調査捕鯨で入手できる全ての鯨肉は約2000トンであるが、入札実績からすれば全部位の平均価格はキログラム1500円程度である。全量を売り切ったとしても収入は30億円にしかならない。実際には鯨肉は相当の売れ残りがあるため収入はそれ以下となる。逆に捕鯨コストは船舶の燃料費や維持整備費用、傭船料、陸上事務員の人件費といった諸経費も見なければならない。
つまり調査捕鯨は事業としては完全に赤字であり、国の援助がなければやっていけない。その赤字額はおそらく年15億円程度である。水産庁の資料によれば、調査捕鯨を受託する日本鯨類研究所は鯨肉販売では経営が成り立っていないないため、2008年には約9億円の国庫補助と捕鯨の調査受託費4億円を受けている。だがそれでもなお赤字であり財団財産を2億円近く切り崩す持ち出しとなっている。
今後は環境保護団体の妨害活動も強くなり、採捕数も稼げなくなる。その場合は鯨肉販売収入も減るため赤字幅はさらに拡大するだろう。
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