認知症患者の鉄道事故は、家族の責任なのか 「妻子の損害賠償責任」の判断問われる最高裁

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A氏は当時要介護4、認知症高齢者自立度Ⅳという重度のアルツハイマー型認知症に罹患していたが、施設に入らず在宅で介護されていた。一審の名古屋地裁は、A氏には判断能力はなく責任能力がなかったとしたうえで、長男がA氏の介護方針を主導していたとして、長男にA氏を監督する義務を認めるとともにこの義務を怠ったとした。

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名古屋地裁は妻と長男に請求額全額の支払いを命じたが、二審の高裁は妻のみに責任を認めた(天空のジュピター/PIXTA)

さらに、妻についてもA氏の動静を注意しA氏が徘徊などをしないようにする注意義務があったのに、目を離してしまった過失があるとした。そのことが本件事故につながったとして、名古屋地裁は、妻と長男に対しJR東海の請求額全額の支払いを命じた。

これに対し、二審の名古屋高裁は、一審とは異なり長男の責任を認めず妻の責任のみを認めた。かつ、JR東海への支払額を359万8870円に減額をした。

妻に損害賠償責任

名古屋高裁の妻と長男の責任に対する判断内容は以下のとおりである。

まず責任を負う主体に関して、長男についてはA氏とは別居しており介護に関与していたといっても介護を引き受けていたものとはいえず、A氏の監護義務者などの地位にあったとはいえないとしてその責任を否定した。

一方、妻については
(1)妻の立場でA氏の見守りや介護を行う身上監護の義務がある
(2)妻は事故当時85歳の高齢者であり要介護1の身障者であったが、子らの援助を受けてA氏の監護をすることは可能であった
(3)本件の事故前もA氏は徘徊をしたことがあった
(4)A氏が駅構内への進入など他者に迷惑をかけることも予想できた

(5)自宅にはA氏が出入りする場所にA氏の徘徊防止のために、人が通過した場合に鳴動するセンサーがあったのに、A氏が徘徊するたびに鳴るのでうるさくて切ってしまっていた
(6)妻には自宅の外部に開放されている場所にA氏と二人でいるような場合には、A氏の動きに注意し、A氏が徘徊しそうなときには制止するか付き添うべきなどの対応をとるべき注意義務があった
(7)それにもかかわらず、妻はA氏と二人だけになっていたときにまどろんで目を離してしまい、それが本件事故につながっているから、(6)の注意義務を怠った過失がある
などとして、損害賠償責任を認めたのである。

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