被災地で高齢者を守る「1人訪問看護ステーション」の奮闘
東日本大震災に伴う特例措置(規制緩和)をきっかけに、看護師が1人で訪問看護ステーションを開業する動きが起きている。
岩手県一関市在住の菊地優子さん(62)は“1人訪問看護ステーション”を開設した1人だ。看護師歴40年の菊地さんは岩手県や宮城県などの被災地で開設要件が「常勤換算で1人以上」(従来は常勤換算で2.5人以上)に緩和されたことを機に、「菊地優子訪問看護ステーション」を自宅で開設。今年5月から利用者宅への訪問を始めている。
6月下旬、菊地さんに同行し、利用者宅を訪ねた。菊地さんを玄関先で迎えたのは、母親の村上カネコさん(82)の介護に携わる洋子さん(59)。菊地さんは村上さん宅に入るや、ベッドに横たわるカネコさんの手を握り締め、「おはよう、カネコさん。今、来たよ」と優しく話しかけた。菊地さんだとわかると、カネコさんはほほ笑んだ。
糖尿病の合併症による脳梗塞で入退院を繰り返してきたカネコさんだが、最近は食欲もあり、顔色もよいという。
母親を見守る洋子さんは、「菊地さんのアドバイスで退院時からのミキサー食をきざみ食に切り替えたのがよかった。食欲が増し、お通じも格段によくなった」と語る。
昨年夏に病院を退院したカネコさんの元には、2カ月に1度の割合でかかりつけ医が訪問診療に来ていたが、それ以外は洋子さんによる身の回りの世話とヘルパーによる介護が頼りだった。「日頃から看護師さんにも来ていただけたらありがたい」。家族の意向を踏まえて、ケアマネジャーの平賀サトルさんが菊地さんに依頼したのが訪問看護スタートのきっかけだった。
■平賀さん、村上洋子さん、菊地さん、村上カネコさん
5月中旬に初めて訪問看護に入った菊地さんは、陥入爪(かんにゅうそう)がひどくなり、雑菌が入って足の指がぱんぱんに腫れ上がっていたのを見つけた。菊地さんは「すぐに対応をしなければ」と判断。化膿した部分を切開して膿を出すとともに、かかりつけ医に連絡を取った。医師がその日の午後に駆けつけてくれたことで適切な処置が行われ、事なきを得た。