被災地で高齢者を守る「1人訪問看護ステーション」の奮闘
菊地さんは当初、週に1度の割合で訪問看護に来る予定だったが、医師の指示書に基づき週2日に変更。拘縮(関節の動きが悪くなること)予防のフットケアや血糖値の管理、栄養指導を続けている。
「訪問看護が必要な人はたくさんいる。ただ、既存の訪問看護ステーションが職員不足を理由に十分に対応できていないことから、必要な看護を受けられずにいる人は少なくない」。平賀さんは地域の実情をこう説明する。
それだけに、「1人訪問看護ステーションの開設が認められたことは朗報。信頼できる看護師との緊密な連携によって、お年寄りや家族への支援をしっかりできるようになる」と平賀さんは期待を込める。
村上さん宅を後にした菊地さんは、昼食を挟んで那須清志さん(81)宅に向かった。膵臓がんを患ううえ、末梢神経炎で歩くこともできない清志さんは、退院後、妻の繁美さん(80)が身の回りの世話をしていた。那須さんの娘と菊地さんがたまたま職場での知り合いだったことが縁で、信頼のおける菊地さんに訪問看護が依頼された。
清志さんにとっての目標は、7月7日に予定されていた孫の結婚式に出席することだった。しかし取材の後、清志さんは容態が急変して他界した。それでも亡くなる直前まで在宅生活を続けることができたのは、退院後すぐに訪問看護の態勢を組んだことによるところが大きい。
■左から那須清志さん、菊地さん、那須繁美さん
1人訪問看護の長所は、顔が見える関係を構築できることにある。また、事務所を自宅に置くことにより、開業コストを低く抑えることも可能。資格を持ちながらも現在働いていない“潜在看護師”の職場復帰を後押しする効果もありそうだ。
従来、訪問看護ステーションの設置基準は「常勤換算で2.5人以上」を満たすことが条件だが、昨年3月に実施された内閣府による「規制仕分け」およびその後の東日本大震災発生に伴う特例措置を踏まえて、被災地については「1人以上」での開業が期間限定で認められた。