被災地で高齢者を守る「1人訪問看護ステーション」の奮闘
もっとも、現在までに1人訪問看護ステーションの開設実績は、一関市と福島県福島市(現在は事業打ち切り)だけにとどまっている。特例措置が設けられたにもかかわらず、市町村の判断で1人訪問看護ステーション開設の申請書類を受け付けないケースが相次いでいるためだ。
昨年4月22日に特例を認める厚生労働省令が施行された後、「全国訪問ボランティアナースの会キャンナス」(菅原由美代表)に所属する看護師らが中心になって宮城県仙台市や石巻市など13市町村で開設の申請や打診がされたものの、ほとんどの自治体が「被災者からの要望がない」(青森県八戸市)、「震災による(訪問看護ステーションの)供給量不足は考えがたい」(仙台市)、「既存の事業者により適正な対応が可能」(石巻市)などといった理由で申請を受け付けなかった。
菊地さんも特例措置が施行された翌日の昨年4月23日に一関市に問い合わせたものの、市は特例措置自体を知らなかったうえ、その後も「1人でできるはずがない」などとして後ろ向きの姿勢をとり続けた。しかし、菊地さんはあきらめずに働きかけを継続。今年3月以降も特例措置が継続となることが決まったことで、一関市はようやく開業を認めた。
全国で初めて1人開業を認めたのが福島市だった。だが、今年2月1日に開業を許可したものの、わずか1カ月で打ち切りになった。福島市長寿福祉課によれば、「その後の調査によって通常の訪問看護ステーションでの受け入れが可能であることが判明したうえ、1人訪問看護ステーションの利用者が(原発事故による避難者でないことから)被災者ではないと判断したことも一因」だという。福島市は当初の期限だった2月29日以降の事業継続を認めなかった。
しかし、もともと医療に携わる職員が少ないうえ、長い避難生活が続く被災地では医療の必要性が高まっていることは紛れもない事実だ。避難所の閉鎖とともに赤十字などによる組織的な医療支援活動が終了する中で、高齢者が多く住む仮設住宅では、数少ない医療関係者によるボランティア活動が命綱になっている。自家用車も持たない高齢者の中には、通院を我慢して家に閉じこもっている人も少なくない。