サイバー危機の発生は決して夢物語ではない なぜ金融の専門家は予想できないのか

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最後に、最大のリスクは、金融危機をもたらした人間の二つの性質、傲慢と無知だ。

私は特に、スーパーウイルス「スタックスネット」と「フレーム」について不安を感じる。米国とイスラエルがイランの核開発計画を妨害するために開発したとされるこれらのウイルスは、これまでの洗練度をはるかに凌駕している。両ウイルスは徹底的に暗号化されており、いったんコンピュータに侵入すれば、発見は困難だ。「フレーム」はコンピュータの周辺機器を乗っ取り、スカイプの会話を録音し、コンピュータのカメラを通して写真を撮り、ブルートゥースを通して近くの装置に情報を送信する。

もし世界で最も洗練された諸政府がコンピュータウイルスを開発しているとしたら、何かが間違った方向に行かないというどんな保証があるだろうか。こうしたウイルスが広範なシステムに感染したり、ほかのことに転用されたりすることがないと言い切れるだろうか。サイバー面の優位性(おそらく中国を除くすべての国に対して)のおかげで、米国には、攻撃によって破られることのないセキュリティがある、と考えることは傲慢だ。

残念ながら、解決策はよりよいアンチウイルスプログラムを開発するというような単純なものではない。ウイルス対策とウイルス開発は不均衡な兵器開発競争になる。ウイルスであれば200~300行ほどのコンピュータコードでできている場合もあるが、アンチウイルスプログラムとなれば、多くの種類の敵を発見するように設計されなければならず、数十万行に及ぶ。

これまで大規模なサイバーメルトダウンは心配しなくてよいと聞かされてきた。なぜなら、そうしたことは起こったことがないし、諸政府が監視しているからだ、と。残念ながら、金融危機から学んだもう一つの教訓は、大半の政治家はその本質的な性質として、リスクが実際に現実化するまで困難な選択をすることができない、ということだ。私たちがもう少し長い間、幸運であることを望もうではないか。

(週刊東洋経済2012年7月28日号) © Project Syndicate

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授

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Kenneth Rogoff

1953年生まれ。1980年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。1999年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001〜03年にIMFのチーフエコノミストも務めた。チェスの天才としても名を馳せる。

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