第一にサイバーセキュリティも金融の安定も極めて複雑で、政府の規制当局はほとんどついていけない。この業界の専門家の報酬は、公的部門の給与をはるかに上回っており、優秀な人材はつねに引き抜かれてしまう。そのため、唯一の解決策は、ソフトウエア業界の自主規制に頼ることだと論じる者もいる。こうした議論は、大手食品会社、大手製薬会社、大手金融企業など現代の産業の多くで聞かれる。
第二に、ハイテク業界は金融部門と同様に、献金やロビー活動を通して極めて大きな政治的影響力を持つ。米国では、すべての大統領候補は資金調達のためにシリコンバレーなどのハイテク拠点に出向かなければならない。金融部門の行きすぎた影響力は、08年のメルトダウンの根本的な原因となった。
金融危機から学べる教訓
第三に、先進国の経済成長が鈍化する中、IT業界は、金融部門が5年前までそうだったように、高いモラルを維持しているようだ。そして、政府が規制を安易にかけようとすれば、破局を防ぐ効果がないどころか、かえって成長の息の根を止めることになるだろう。
金融の安定とサイバーセキュリティの両方の場合において、民間のインセンティブと社会的なリスクの間に断絶が生じる可能性がある。ハイテク部門の進歩はしばしば、社会福祉の大いなる向上を生んでおり、ここ数十年で他部門すべてが生み出したものを超えていると論じることもできる。しかし、ちょうど原子力発電所と同じように、有効な規制がなければ、進歩は間違った方向に行くおそれがある。
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