インフラ復旧中心では被災地の衰退は深刻化、人口減を前提に地域振興策を--震災が突きつけた、日本の課題《3》/吉田典史・ジャーナリスト
筆者は、岡田氏が奥尻島で撮影した写真やリポートに目を通した。区画整理された住宅が整然と並ぶ。そこには人影がない。岡田氏は、こう説明した。
「町づくりの心臓部ともいえる、経済に目を向けなければ産業振興はありえない」
合理性が伴わない“ヒューマニズム”の怖さ
岡田氏は、奥尻島と似たようなことが東北の被災地でも起こりうると警告する。
「たとえば、堤防を造り直し、これまで以上に強固にする地域がある。その管理や維持費は被災地の自治体だけでなく、国として負担していくことになる。このことを考えると、現在40~50代やそれ以下の世代は重税感などに苦しめられる可能性がある。最悪の場合は、北海道の夕張市のように財政破綻に陥る自治体が現れるかもしれない」
『安心で安全な町を造った一方で、生活することができなくなった』と後々、言われかねないことを危惧しているのである。
これは筆者の考えであるが、堤防などのハードの整備は被災地の実態、つまり、人口や経済力、自治体の税収などを踏まえたうえで進めるべきものではないだろうか。「多くの人が亡くなり、かわいそうだ」という感情論で対応すべきではないと思う。
数十年後にまで残るハードを一時の感情で次々と造ると、実は一段と住民らを苦しめることになる可能性がある。合理性が伴わない“ヒューマニズム”の怖さともいえる。
岡田氏は、このようにも指摘した。「被災地を離れる若い世代が一段と増えることも考えられる。ある意味では、離れることができない人の中に、気の毒な人がいる。本来、このような人たちのことを考えないといけないのではないだろうか」
筆者も被災地で取材を続けると、震災が大きな「格差」を生み出すことを思い知る。
家族や財産を失い、悲嘆に暮れながらも、老いた親の面倒を看ざるをえないがために、残り続ける人がいる。それに対し、無事だった家族と一緒に早々と被災地を離れ、仙台市など都市部に移り住んだ人もいる。
岡田氏は、復興の議論は今後、被災地の人口が大幅に減っていくことを前提にすべきと考えている。そして復興策の1つとして、震災で破壊された地域をある場所に集約するなどして、町を造り直すことを提言する。人口が減少する時代には、コンパクトな町づくりが好ましいからだ。