クラウドファンディングが信用されないワケ 詐欺防止を徹底できるのか

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そのリスクとは、投獄対象となるような明らかな詐欺ではなく、もっと些細なごまかしから起きる。堂々としたごまかしかもしれない。実行者が騙されやすい素人の目を事業計画の欠陥からそらさせたり、その欠陥を渋々ながら、ないしは細かな字で公表するのだ。

ジョージ・アカロフと私の共著「Phishing for Phools: The Economics of Manipulation and Deception」では、経済理論では良心的ではない行為も考慮しなければならない、と論じた。し烈な競争圧力にさらされながら何らかの事業が行われる際には、とるに足らない個人の不誠実さが、システム面で重要な役割を果たしてしまうのだ。

誤った情報をどう排除するか

SECのクラウドファンディングの新ルールは複雑である。その理由は、複雑な問題に取り組んでいるからだ。

クラウドファンディングの大きな特徴は、無数の人に情報を拡散する点にある。次のビジネスブレークスルーのチャンスを理解できるのは、情報を拡散できる人だ。

経済学者のフリードリヒ・ハイエクは1945年に、「特定の状況と場所に関して有益に使える可能性のあるユニークな情報を持っていれば、全ての個人が他人よりも優位に立てる」と指摘した。問題は、真に「ユニークな情報」に関する約束には、欺瞞の可能性が伴う点だ。このため、正直な情報開示を重視した規制の枠組みが必要になる。

クラウドファンディングプラットフォームのルールづくりをSECに課した2012年の米国の法律では、スタートアップ企業は、年間100万ドル以上の調達はできないと明記されている。この規定は重大な誤りであり、新たな法律で修正する必要がある。100万ドルでは不十分だ。上限を設ければ、クラウドファンディングは小さなアイデアに限られていくだろう。

SECのルールには、偽りの防止に有効なものがある。特筆すべきことに、クラウドファンディングのプラットフォームには、コミュニケーションチャンネルが備わっていなければならない。投資家同士が情報を交換でき、提供される情報について株式発行者の代表とも意見交換ができる。

さらに、プラットフォームを提供する仲介者が監視システムを導入し、偽のコメントを出すサクラから投資家を保護すべきだ。SECや他の規制当局はさらに、コメントをした者の記録、誹謗中傷などを要約するプラットフォームを仲介者に開発させることもできるだろう。

金融システムが全体として成立するかどうかは、つまるところは、信用と自信を持てるかどうかだ。だからこそ、クラウドファンディングを全世界規模にする際には、詐欺であるクラウドフィッシングが最初から阻止されなければならない。規制当局は正しいルールを制定することが望ましく、それは早ければ早いほど役に立つだろう。

週刊東洋経済12月12日号

ロバート・J・シラー 米イェール大学教授

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Robert J. Shiller

ノーベル賞受賞経済学者。1972年にMITで経済学のPh.D.を取得。「資産価格の実証分析」を評価され、2013年にノーベル経済学賞を受賞。2000年に刊行された『投機バブル 根拠なき熱狂』は、アメリカのITバブル崩壊を予言した書としてベストセラーとなった。同じくノーベル経済学賞を受賞(2001年)したジョージ・A・アカロフとの共著『アニマルスピリット』も、サブプライムローンに端を発する金融危機を理解する書物としてベストセラーとなった。著書に『それでも金融はすばらしい』『不道徳な見えざる手』(アカロフとの共著)など。

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