格差が拡大した原因は、「資産」だけではない

あのピケティをたしなめた「師匠の言葉」

また手法面での提案もある。給付金の受給資格を審査するための資力調査や所得調査をやめて、児童手当などはとにかく児童のいる世帯全員に配り、課税対象にすることで金持ちからはそのまま所得税として回収すれば手間がはぶける、といった具合だ。

このように、本書の提案は実に多岐にわたるし、そのすべてが理論面だけでなく、ある程度の財源的な担保も持っている。そして、ありがちな批判に対しての反論も用意されている。21世紀の新しい労働環境に向けて社会保障制度を再構築し、福祉国家を立て直すための総合的な提案が本書となる。

日本への示唆のために

もちろん、この総合性が裏目に出る面はある。何かたった一つ、決定的な提案があるわけではない。あれもこれも、と提案されているために、全体的な印象がぼやけてしまうかもしれない。またこうした提案が、すべてイギリスを具体例として提示されているために、わかりにくい部分もある。読者の全員が既存のイギリスの社会保障制度に詳しいわけではない。その部分をこうしてああして、と言われてもピンとこない部分もあるだろう。これは、提案の具体性を増すためには仕方ないこととはいえ、本書の弱い部分ではある。

が、細かい政策提案の背景を考えれば、そのすべてはいまの日本(またはそれ以外)にとっても示唆的なものとなる。これまで指摘したように、技術の進歩による不平等にはどう対応すべきか? 非正規労働の増大にはどう対応すべきか? こうした問題に対する対応方針は、どれも日本にとっても有益だ。

そこに登場する問題はすべて、日本社会にも大きく作用しているものだからだ。個人的には特に本書で、社会保障制度の強化を、児童手当を中心に行うよう提言している部分は、日本にも重要だろう。日本は少子化が問題だと言いつつ、出産も子育ても支援体制は決してよくない。貧困児童の問題も大きい。子供手当と称してたまに提供されるものは、数万円というスズメの涙ほどの一回限り。本書で提案されているように、それを中心として社会保障給付を組み直すくらいの取り組みがないと、少子化は解決せず、結果として年金問題も生産性の問題も数十年単位で見ればジリ貧にならざるを得ないのではないだろうか。

もちろん、読者それぞれ重視したい点は違うだろう。でもどんな視点を採るにしても、本書には必ずそれに対応した分析と提言が含まれているはずだ。これが少しでも日本の将来的な社会保障と、不平等の改善につながることを期待したい。

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