がん発症を疑う所見なし、県民不安解消に努力 福島県の小児甲状腺検査キーマンに聞く
--山下さんら研究者が2001年に発表した論文では、チェルノブイリ事故で多くの小児甲状腺がんが発生したベラルーシのゴメリ州と長崎市の子どもに対する甲状腺の超音波検査の結果として、5・0ミリメートル以上の結節のある子どもの割合がゴメリ州で1・74%(342人)に達したのに対して、長崎市では0・0%(0人)と記述されています。今回の県民健康管理調査では5・1ミリメートル以上の結節が認められた子どもが0・48%(184人)に上っていることから、チェルノブイリほど深刻ではないものの安閑としていられないのではといった指摘もあります。
山下 もともとこの論文は食事摂取に基づく尿中のヨウ素と甲状腺疾患の関係を検証しようとしたもので、その“副産物”として結節や嚢胞の頻度を報告した。留意しなければならないのは、母集団の数や年齢が、ゴメリ州と長崎市とでは大きく異なるという点だ。ゴメリ州の調査対象が1万9660人に上るのに対して、長崎市では250人。年齢もゴメリ州が11~17歳である一方、長崎市では7~14歳となっている。ゴメリ州と長崎とでは用いた検査機器も異なる。さらに、10年以上前の機器による検査結果と最近の高性能の機器による結果は大きく異なるため、当時と現在の検査結果を比べることに意味はない。
もちろん、福島県での検査結果を福島原発事故による放射線の影響がない地域での検査結果と比べることは、住民の不安の解消にも寄与する。こうした比較研究については日本甲状腺学会でも「臨床重要課題」として取り上げていただいているので、近い将来、研究が行われると思う。
住民の信頼獲得に努力 内部被曝は未解明な点も
--昨年7月の県民健康管理調査検討委員会の資料では、「現時点で予測される被ばく線量を考慮すると、福島原発事故での放射線による健康影響は極めて少ないと考えられる」という記述があります。放射性ヨウ素による内部被曝も含めての見解と受け取ってよいのでしょうか。
山下 チェルノブイリ事故で小児甲状腺がんが多発した理由として、普段はヨウ素を含む食品の摂取量が少なかった一方、放射性ヨウ素で汚染された牛乳など食物の摂取制限が遅れたことが挙げられる。避難住民の放射性ヨウ素による甲状腺の平均被曝線量は原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の推計で490ミリシーベルトに達している。甲状腺がんを発症した子どもの甲状腺被曝線量は100~4000ミリシーベルトに上る。
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