これまでのところ、中国の証券市場への外国金融機関の進出状況は、限定的だ。しかし、すでに述べたように、外資比率の規制が緩和される。現在では、外国の金融機関からすると、中国本土に進出するよりは、香港から業務を行うほうが有利と言われる。ただし、将来の発展可能性はきわめて大きい。
もっとも、個人を相手にした株取引の仲介では、オンライン通販で楽天が撤退したことと同じような事態に追い込まれる危険が大きい。委託手数料引き下げ競争に巻き込まれて、利益を上げられない危険もある。
考えられる業務としては、富裕層を相手にしたプライベート・ファンドがある。ただし、もっと重要なのは、企業の資金調達にかかわる業務だ。すなわち、投資銀行業務である。対象となる企業としては、新興国に進出する日本企業もあるし、中国の企業もある。また、これから工業化が進展する新興国の企業もある。
しかし、これも決して簡単な課題ではない。第一に、投資銀行業務では専門的人材が重要だが、歴史を持つ欧米金融機関が断然有利だ。日本の金融機関はこれまで国内業務が中心だったので、グローバル市場でどれだけ専門的な金融業務を展開できるかは未知数だ。
日本の比較優位がないわけではない。それは日本の資金を使えることだ。たとえば、中国企業が日本の株式市場で上場することを支援する業務などである。
日本全体の立場から見ても、対外資産運用という点で重要である。それによって新興国の経済成長から利益を受ける。今の日本の海外投資は、欧米諸国の債券に偏っている。それをアジア新興国に分散するのだ。
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)
(週刊東洋経済2012年6月30日号)
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