ロシアのシリア「のめり込み」は止められない なぜ軍事介入をエスカレートさせているのか

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縮小

これらの問題は短期的な改善を望めない。原因は石油の国際価格にあるためロシア一国では如何ともしがたいためだ。

その上、今後は食料問題も深刻化する可能性が高い。海水温の異変であるエルニーニョ現象は春まで続く見込みであり、2016年には天候不順が見込まれている。高緯度に位置するロシアは影響を強く受ける。さらに農作物の国際価格も上昇する。食料や飼料を輸入するにしても、経済不況下のロシアには厳しい。餓死に及ぶものではないだろうが、食肉価格の上昇等により国民不満を高める要素となる。

外交の失敗も重ねてきた

また外交でもロシアは包囲網下にある。国民は現状に閉塞感を持ち始めており、政府の失策と疑いかねない状態にある。実際、クリミア問題以降、西側からの厳しい態度は続いている。経済制裁がそれであるが、これも国民には政府の失敗を印象づけるものとなる。

軍事面での封じ込めも無視できるものではない。昨年来、NATOの東欧シフトは進んでいる。ロシア警戒感が強い東欧諸国は対ソ戦備を増強し、NATO加盟国軍を招き入れ、事実上の駐留状態を作り上げている。特にバルト三国にNATO戦力が駐留する状態は、ロシアやその国民にとっての脅威ともなっている。陸上国境を接しており、モスクワまで500km台と間近なためだ。

アジア方面での外交的勝利も見込めない。ヨーロッパ部でうまく行かなくなるとアジアに手を延ばす傾向があるが、今回はそれにも失敗している。日中との外交改善を進めようとしたものの、中国にはエネルギー協力で足許を見られ、日本には協力関係進展を拒絶された状況にある。アジア各国の成長と、対照的な極東部の衰退により既にロシアはアジアでは大国ではない。

そして、領土問題でもロシアは後退を続けている。この点でロシアの国民感情は傷つけられており、また政府は成功を収められていない。

ロシアは長期的に縮小を続けている。ソ連崩壊により東欧衛星国を失い、バルト三国、ウクライナ、ベラルーシ、中央アジア各国の独立を許した。以降もチェチェン等の民族運動を抱え込んでおり、今以上の縮小はあり得る話である。さらに将来的にはベラルーシやシベリア諸民族との関係も安定化できるかわからない。

そもそもウクライナ問題でもロシアは勝利を収めていない。確かにクリミアを獲得し、ウクライナ東部を影響圏とし、勝利を演出した。だが、肝心のウクライナ本体はロシアの影響圏を離れ、そこでの権益を失っている。

 そして、ウクライナ東部でもロシアの影響力は怪しげな状況にある。最近ではウクライナが巻き返しを図っている。そこでロシア勢力が完全勝利を獲得できない状況も、潜在的ではあるが、ロシア国民にとって不満を募らせる要因となる。

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