ロシアのシリア「のめり込み」は止められない なぜ軍事介入をエスカレートさせているのか

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これらは、プーチン独裁体勢には都合が悪い。政権は「強いロシア」の実現で支持されている。それに失敗すれば、あるいはその実現を疑われれば、独裁体制の正当性を喪われ政権維持は危うくなる。

なによりも致命的なのは経済問題だ。これまでも政権は種々の失敗を犯してきた。だがそれは強力な経済成長により糊塗され、その政治問題化は防止された。しかし今後は経済不調でそれは不可能となり、その大不況そのものが「強いロシア」も疑わせる要素となるのである。

その上に外交、領土での問題もある。政権にとってはいつ破裂するかの爆弾要素である。

シリアでのロシア介入は、この苦境を国民から隠蔽するためなのだろう。現地での軍事力活躍で「強いロシア」を印象付け、フランス、さらにはアメリカとの協調によっても外交的な閉塞状況の改善を期待させる。さらにアサド政権の延命により、ロシア影響圏は保持されたと国民向けに宣伝できる。

シリア介入そのものに実利が見込めないことも、それを補強する。そもそも、現地には大した経済的な権益はない。フランスやアメリカとの協調もウクライナ問題による経済制裁の改善に繋がる見込みもない。そもそもアサド政権の扱いでうまくいなかい可能性は高い。

国内事情を改善できないかぎり介入は続く

以上の理由から、国内事情を改善できないかぎり、ロシアはシリア介入をやめられないはずだ。

前述のように「原油価格低迷が続けば、ロシアは経済的事情からは介入継続が難しくなる」といった報道が散見されるのだが、おそらく実際はその逆である。原油価格の低迷、あるいは今以上の下落によりロシア経済が悪化しても、プーチン政権は国内問題を糊塗するため、むしろ今以上の介入を続けるだろう。

強力な兵器の投入により、シリア問題では「強いロシア」が印象付けられている。だが、それはロシア国内やプーチンの苦境の裏返しにも見えるのである。

文谷 数重 軍事ライター

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もんたに すうちょう / Sucho Montani

1973年埼玉県生まれ。1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。ライターとして『軍事研究』、『丸』等に軍事、技術、歴史といった分野で活動

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