当時の樋口さんは、上司であるカメラマンのサポートをするアシスタント。撮影前の準備から、撮影後の写真の整理まで、こまごました業務をこなさなければならない。働き方の意識が変わってきた今と違い、当時は徹夜も珍しくなかった。
心身ともに常に多大な負荷のかかる状態だったという樋口さん。「おなかはそんなに強くないほうなのに、ストレスを感じると暴飲暴食してしまう。翌日におなかを壊すのは日常茶飯事だった」と振り返る。
さて、夕方に始まった腹痛は、夕食を食べたあとも治まらない。
妻に電話をかけて腹痛が治らない旨を伝えたが、日頃の樋口さんのおなかの調子を知っている妻からは、「また? 一晩寝たら治るんじゃない?」と軽くあしらわれる始末。本人も「やっぱりそうなんだろうな」と妙に納得し、深く考えないまま床に就いた。
しかし、翌日も腹痛は続く。しかも、痛みは前日よりひどくなっていた。だが、おなかは痛くても、朝食も昼食も普段どおり食べられた。
悲劇はその後に起こった。
気絶しそうな痛み
「昼食後、腹痛が加速度的に激しくなっていったんです。例えるなら、内臓をギュッと手で握り潰されているかのような痛み。3時ごろには脂汗が出るほどの激痛で、とうとう立てなくなりました」
さすがにこれはおかしいと思った樋口さん、インターネットで症状を調べると、虫垂炎の症状にぴったり当てはまっていた。虫垂炎とは、大腸の右下のあたりにある虫垂という部分に炎症が起こる病気だ。一般的には「盲腸」と呼ばれている。
折り悪く両親は外出中で、実家には樋口さん1人だけだった。
「電話でタクシーを呼び、おなかがめちゃくちゃ痛いので近くの大きな病院に行ってほしいと頼みました。そうして、たどり着いた病院で、運転手に肩を貸してもらって受付を済ませて待合室へ。このときには、もう気絶しそうなくらいの痛みでした」
血液検査や画像検査を受けた結果は想像どおりだったが、“たかが虫垂炎”とはいかなかった。
「急性虫垂炎で腹膜炎の一歩手前」で、このまま放置していれば命にも関わっていたかもしれないとのことだった。
「医師からは、虫垂がいつ破裂してもおかしくない状態なので、緊急手術が必要だと言われました。『こんなになるまでよくがまんできましたね。すごく痛かったでしょう』と言われた記憶があります」(樋口さん)


















