「この脚本がコンクールに応募されたら、真っ先に落ちる」…『果てしなきスカーレット』はなぜ感情移入できぬ作品に?プロに解説してもらった

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スカーレットの中の葛藤を、時系列ごとに道筋立ててあげるだけで、観客はその感情に寄り添いやすくなるということだ。A氏は続ける。

「また、本作最大の見どころである未来の渋谷でのダンスと歌のシーンをとっても、『幼少期にスカーレットが歌う』シーンを入れるだけでも伏線になったと思います。

歌が好きだった

反対に歌なんて嫌いだった

など、歌とスカーレットの関係性がわかる描写をほんの数秒入れ込むだけで、観客の受け取り方はがらりと変わるんじゃないでしょうか」

歌が好きだった少女が復讐のために歌を捨てたが、死の国での旅の中で人々と関わり、歌が好きだった気持ちを思い出す。父を殺されて以来歌なんて嫌いだったが、人々が歌い踊る姿を見て復讐以外で心が動き、未来で体験したことで、これまでの価値観が180度変わるーー

そんなふうに、スカーレットの感情が移り変わるステップを踏むことで、その言動がするりと入ってきやすくなるということらしい。

確かに、上記のように要所要所でちょっとしたフリを入れるだけで感情移入できる要素が生まれた可能性がある。にもかかわらず、適切に伏線を入れられていない点が、脚本家目線ではとにかく残念に映るようだ。別の脚本家B氏は語る。

「本作はアニメーションや背景、音楽などのクオリティが本当に素晴らしい。さらに、本編のほとんどをCGで描き、従来では困難だった表現にも果敢に挑戦しています。これからの日本の長編アニメーション映画を担う作品として、非常に意義のある作品だったと思うんです。

……ですが、脚本がノイズとなってしまい、肝心の映像も音楽もほとんど見てもらえない結果となってしまった。私は細田守監督のアンチではありません。むしろファンです。だからこそ、脚本の拙さがもったいないと思うんです」

キャラクターの行動原理に納得できる『サマーウォーズ』の好事例

現役の脚本家たちから酷評が続く『果てしなきスカーレット』だが、細田作品のすべてが脚本的に粗があるわけではない。むしろ、過去の傑作たちは、脚本の観点から見ても完成度が高いという。

例えば、細田守監督作品でも、特にキャラクター人気が高い『サマーウォーズ』。主人公・健二とヒロインの夏希を中心に、陣内家の人々の群像劇が見事に描かれている。爽やかな夏の映像や音楽などの要素もさることながら、さまざまなキャラクターへ感情移入できるのも魅力のひとつといえる。

『サマーウォーズ』の作中で、キャラクターが感情をそのままセリフとして喋るシーンは少ない。だが、「キャラクターの行動原理は理解できる」と感じる人は多いのではないだろうか。

本作のキーパーソンである「侘助」の言動を例に見てみよう。侘助は、陣内家の長・陣内栄の養子だ。栄の夫が愛人に産ませた隠し子という背景を抱えている。養子という立場だからこそ、自分を慈しみ育ててくれた栄に「認めてもらいたい」という想いを人一倍持っているキャラクターだ。

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