84歳女性が「断捨離しない」代わりにした"決め事"――樋口恵子さん「身近なものを手放すことはつらい、整理する気力も体力もない」から

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1回目の仮住まいへの引っ越しで残したものは、「捨てがたい」という思いがあったもの。

私以外の人間にとってはなんの価値もないものかもしれませんし、なきゃ困るというものではないけれど、やはり捨てるにはしのびない。かといって日常生活で必要なものというわけではないので、出して整理するのが大変なのです。

片づけなんてしている暇はない

そこで決めました。もう、これ以上片づけるのはやめよう、と。

この年齢で片づけなんて、体力も気力も消耗し、寿命を食いつぶすだけです。残された歳月を思ったら、したいことがまだたくさんあるので、片づけなんてしている暇はありません。

私は荷物の処分費用を残して、ガラクタも残す。「そのなにが悪い!」と胸を張って言うことにしました。

いまも娘に言われますよ。「この山のような荷物、どうするのよ」と。私は「どうもしないッ!」と開き直っています。

一般に子どもというのは、とかく老いた親に「家を片づけろ」と言いたがるようです。

最近は「親家片(おやかた)」なんて言葉もあるそうですね。親の立場からすると、「余計なお世話」と言いたくなります。きちんと片づけられる人のことはもちろん尊敬していますけれど。

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高齢者にとっては、長年身近にあったものを「手放す」ことはつらいし、モノを選(よ)り分けて整理する気力も体力も乏しくなっています。かといって、子どもに勝手に選り分けられるのも、ちょっと待ってよ、と言いたくなります。

それに歳をとって外出がままならなくなっても、モノを眺めながらいろいろな記憶をたどるだけで、無聊(ぶりょう)を慰めることができます。

「あら、このブローチはオペラを観に行ったときイタリアで買ったんだわ」とか、「この資料はあの本を書くときに集めた」などと思うだけで、ちょっぴり幸せな気分になります。

だから、無理して“断捨離”することはありません。しかし、子どもの迷惑もまたわかります。そこで、ガラクタも残すが遺産も残す、の作戦です。

「処分費用はちゃんと残すから、放っておいて。私が死んだあとに捨ててちょうだい」と子どもに伝え、毅然として片づけを拒否してもかまわないと思います。

樋口 恵子 東京家政大学名誉教授/NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」名誉理事長

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ひぐち けいこ / Keiko Higuchi

一九三二年東京生まれ。東京大学文学部卒業。時事通信社、学研、 キヤノン株式会社を経て評論活動に入る。著書に『老~い、 どん! あなたにも「ヨタヘロ期」がやってくる』『老いの福袋 あっぱれ!ころばぬ先の知恵88』などがある。

 

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