「失われた20年」と日本経済 構造的原因と再生への原動力の解明 深尾京司著 ~問題は生産性にありとデータで精緻に分析
評者 河野龍太郎 BNPパリバ証券経済調査本部長
かつて不良債権問題こそが長期停滞の原因と考えられていた。しかし、問題解決後も、貯蓄投資バランスは失調したままで、停滞が続いている。あまり気が付かれていないが、日本では1990年代以降も一人当たりの資本ストックはそれなりの拡大が続いてきた。積極的な金融緩和で実質金利が引き下げられた効果ともいえるが、重要なのは投資の質である。生産性向上につながる設備投資が十分行われず、それゆえ所得も増えないため、消費も低迷している。
実は、貯蓄投資バランスの失調は今に始まったことではない。70年代半ばから続く慢性的な現象で、底流には生産性の低迷がある。生産性低迷の原因を取り除かなければ、積極的な金融政策だけで問題を解決しようとしても、収益性の低い資本ストックを増やすだけで、再び不良債権を生み出す恐れもある。デフレを解消しても、貯蓄投資バランスの失調問題は解消できず、停滞からは抜け出せない。
本書は、長く日本経済を分析してきたマクロ経済学の大家が、失われた20年の原因を分析し、処方箋を論じたものである。生産性や雇用創出について、マクロ統計にとどまらず、企業や事業所データを用いた精緻な分析が行われ、説得力のある実証結果が示される。問題意識や分析結果、処方箋について評者も概ね賛同する。
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