──突然のオファーですね。
ええ。でも即座に「いや、さすがにそれは無理でしょう」とお断りした。当時の私は歌舞伎を見たことがなかった。準備の時間もない。演目は『鏡獅子』と『隅田川』だと言われても「知らんわ、そんなん」って感じでした(笑)。
だから断ったんですが、どうしてもと。「玉三郎サイドからの指名だから」って言うんです。 「指名されるような心当たりはない」と言い返したら、マネージャーがワイダへのインタビューを聞いていて、「彼にやってもらいたい」と言っているんだと。資料は現地で渡すからとにかく来てくれと。結局、断り切れなくて行きました。
現地で渡された資料はA4用紙1枚でした。 もう開き直るしかなかった。歌舞伎の専門的な話は、こっちは素人なのでボロが出る。媒体は新聞だったので、私のように「玉三郎という名前は知っていても、舞台は見たことがない」という読者に向けた記事にしようと割り切りました。
お会いして開口一番、「私は歌舞伎を知りません。だけど、玉三郎さんの存在はもちろん知っている。私と同じような人たちに、玉三郎さんの魅力を伝えたい。だから、『坂東玉三郎とは何者か』というインタビューをしてもいいですか?」と単刀直入にお願いしました。
当時、私は31歳。初対面の大スター相手に無茶ですよね。でも彼は「楽しそうね」と言ってくれて、インタビューが始まった。
心臓をぐっと掴まれたような感覚に
──最初の印象は?
強烈でした。名刺交換の時、あの人は相手の目をじーっと覗き込むんです、しばらくの間。心臓をぐっと掴まれたような感覚。「やっぱりただ者じゃない」と震えました。 取材時間は「舞台の後でお疲れなので、きっかり30分で終えてください」と釘を刺されていました。
インタビューは「現代社会に生きる人間が、舞台に立つ時にどうやって江戸時代のスイッチを入れるのか」という質問からスタートしました。すると、あっさり「プロですから」と一言で片付けられてしまった(笑)。


















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