戦後続けてきた日本の平和外交を今こそ発揮すべきだ、パワーポリティクスと大国外交では日本が滅ぶ(前編)
台湾が中国の一部であるということは台湾は国ではないということであり、密接な関係にある他国の攻撃とわが国の存立危機事態には該当しないのである。この共同声明は順守しなければならない国際条約であり、破棄しないかぎりそれは守らなければならないのだ。
筆者のような世代は、この共同声明に記された日中関係について鮮明に記憶しているはずだ。だからこそ、中国政府以上にこの発言にはショックを受けたと思う。
憲法があらゆる法律の基礎である限り、これを守るというのがその国民にとって基本的義務であるはずだ。
高市答弁は中国にどう衝撃を与えたか
中国は、日中共同声明に記されているように台湾を政府として認めないという条項への違反として、高市発言に対して訂正を求めた。台湾問題は内政問題であり、かりに衝突があったとしてもそれは内乱であり、それに関与すれば内政干渉、侵略ということになる。
とりわけ中国が懸念したことは、戦前の日本による中国への侵略も、こうした存立危機を理由にして始まったことへの深い憂慮にあった。
実際、衆議院議員として国際連盟の日本全権大使となった松岡洋右(1880~1946年)は『東亜全局の動揺―わが国是と日支露の関係満蒙の現状』(1931年、復刻版、経営科学出版、2019年)でこう述べている。
「わが国民に告ぐ、1.満蒙は我が国の生命線である。2.大和民族の要求は最小限度の生存権である」
松岡は国際連盟で日本に反対する声に対して退場した後、日本は泥沼の日中戦争へと進んでいく。当時生存権という言葉はかなり使われていた。今回の言葉でいえば、存立危機である。
中国は早速、日本という国は前の戦争でも日本の存立危機を理由として侵略を開始したではないかと批判したが、その批判に対して反論しようもないのである。
中国は、昔の日本が復活したことへの懸念を表明したが、まさにそれは日本が存立危機、生存危機を高らかに叫ぶときは、危険であることを知っていたからである。


















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