「狭いと車椅子をぶつけるんじゃないかって神経を使うけれど、広ければ気にしなくてすむから」
その言葉を聞いて吉田さんは、バリアフリー住宅とはすなわち「ストレスフリー住宅」なのだと思い至ったという。
「家は暮らしの器。年を取ると暮らしも変わります。棚の奥に手が届かないとかコンセントの位置が低くて屈むのがきついとか、非常に細かな暮らしのストレスが、家をきちんとすることでストレスフリーとなり、居心地よく生きる力を引き出してくれるのだと近藤さんから学びました」
では、吉田さんにとって「ストレスフリーの居心地がいい住まい」とはどのような住まいだろうか。
「窓から空や緑がよく見えることと、好きなモノに囲まれていること。ちょっと落ち込んだときも好きなものを見ると、元気が湧くんです。モノからもらえるエネルギーというのはすごいなと思います」
吉田さんの最愛のモノは、大学生のときから50年間恋焦がれた末に、10年前に手に入れたというハンス・ウェグナーのソファーベッド。南阿蘇のほうの自宅リビングに置いていたが、熊本市内のマンションに運び込んだ。
愛着あるモノを捨てるのはくたびれる
そうこうして暮らすうち、気がついたら部屋の中は好きなモノだらけになってしまった。
東京、横浜、熊本と引っ越しするたびにダイナミックに処分してきたつもりだったが、今もまだ細々とした断捨離が続いている。
かつては吉田さんが親の断捨離に苦労した。老親が住む実家がモノだらけのゴミ屋敷となり、吉田さんは実家に帰るたびにゴミを捨てに行く。すると、母は遠いゴミ捨て場まで必ず取り返しに行ったという。
「今では私が娘に『お母さん、こんなの捨てていいでしょ』と言われていて、私は『いるの』と言い返しています(笑)。
それにしても愛着あるモノを捨てるのは、決断するのも心が痛むし、脳に大量の血流が必要なんじゃないかなと思うくらい、すごくくたびれますね」
老後の断捨離問題に頭を悩ます人は多い。バリアフリーコンサルタントの吉田さんとて、そうだった。居心地のいい住まいのために、好きなものと断捨離のさじ加減はどうしたらいいだろうか?
「50歳になったら何が好きかを考え抜いて、不要なものは買わない、家に入れない。それしかないですね。私ができなかったからこそ、自戒をこめて申し上げます」
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