手すりだらけにしなくとも、生活動線上に連続した棚やしっかりした家具を配置すれば、手をついて伝え歩きができる。動作が変わるところにつける手すりはデザインや色を選べばインテリアになじむ。
「リフォームで壁をいじる場合、今はまだ手すりが必要なくても将来のために手すりの位置を決めて、下地を入れておいてもらうことをおすすめします」
「バリアフリーのリフォーム」といえば床の段差をなくすことと思っている人が多いが、吉田さんは「住まいのバリア(障壁)」は物理的な段差だけでなく「心理的」なバリアもあるという。
バリアを取り除くことが住む人の生き方を自由にすると、吉田さんは多くの施主から学んできた。
その施主の1人に1964年の東京パラリンピックに車いすバスケットボールの日本代表選手として出場した近藤秀夫さんという方がいる。
出会いは、吉田さんが東京パラリンピックの通訳ボランティアとして参加した大学生のとき。自衛隊によってバリアフリー化された選手村で何不自由なく過ごすイタリア選手団に衝撃を受けたことから、吉田さんは日本でほとんど知られていなかったバリアフリー建築の道に進んだ。
出会いから18年後、独立した吉田さんに近藤さんが自宅の設計を依頼。そのときから吉田さんは新築3回、リフォーム2回、年月にして42年もの間、近藤さんの住まいに関わっている。
「心理的なバリア」をなくしてこそバリアフリー
「最初の新築で『何でも自分でできるようにしてくれ』と頼まれました。その後は居間から車椅子に座ったまま移れる小上がりの和室や、おしゃれを楽しむウォーキングクローゼットがある家になり、階段昇降機からホームエレベーターへのリフォームもしました。もうこれで終わりかなと思ったら5回めの依頼をいただき、奥さまの故郷に家を建てたんです」
近藤さんの希望は、居間を20畳にすることだった。吉田さんが「20畳もあったら掃除も大変だし、老夫婦が住むのにどうしてそんなにいるの?」と聞くと、近藤さんの答えはこうだった。


















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