「ニトリの家具で整えた築古2DKのアパート」「地方都市でかつての同級生と…」 映画『平場の月』が描く、"50代ほどほどの幸せ"の真価
映画の美術スタッフによると「ものが少ない部屋なのですが、侘しい、もの悲しい感じにはしたくないなと思いました」。かといって賑やかな感じでもない。そのために「柄ものを置かない」など、ディテールに気を配った。
特に色味は重視した。
「一般的に、寒色を使うと寂しくなるし、暖色を使えばちょっと温かみのある部屋になる。今回は寒色を使いつつ、寂しくならないようにしたいと考えました。そのためにカーテンの緑の色合いなど、彩度に気を遣いました」(『ピクトアップ157号』2025年12月号 『平場の月』の美術について、美術・五辻圭さんのインタビューより)
1階の入り口のそばの土にはハーブ(ローズマリー)を植えて料理に使用している。2階の窓から月を見上げる夜もある。それを青砥が目撃し、「お前あのとき何考えていたの?」「夢みたいなことだよ。夢みたいなことをね、ちょっと」という印象的な会話が交わされる。
「ちょうどよくしあわせ」を求めて死ぬまで生きる
和室のリビングに座って、コンビニで購入した酒とつまみを広げる。まったくかっこつけていない。
須藤は昔から「太い」と言われていて、それは体形のことではなく精神のことで。図太いとはまた違う、凛とした感じであろう。そんな彼女に似合った質実剛健な部屋である。
リビングの隣の和室はベッドルーム。ここも大きな家具はベッドとラックとシンプル。外置きのラックにかけてあるからか、新しい服も新しいニオイがしないというリアリティのあるセリフが印象的に響く。
買っても着ていく機会がなく、仕事の行き来はほぼユニクロ。それが青砥と会うことで以前買ったワンピースを着てみたりして。
『平場の月』で筆者が最も強烈に印象に残ったのは、和室にベッドを置いた理由だった。ここはあえて明記はしないでおこう。ただ、須藤はこの部屋を終の棲家にしようと覚悟しているのだ。
多くを望まず「ちょうどよくしあわせ」



















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