また卓上調味料の充実ぶりも、完全にラーメン店のそれに近い。揚げ玉、すりごま、ラー油、七味など、味変を前提としたラインナップが揃い、お客さんが途中で味の輪郭を変えながら食べ進められるようになっている。
豚汁に揚げ玉を落とすという文化は本来一般的ではないが、ラーメン的フォーマットにのっとった食べ方を提示することで、食の楽しさを増幅している。結果として、1杯の中で得られる体験の密度が高まり、満足度が上がり、リピートに繋がる。
さらには、価格設定までもラーメンのマーケットに近い。「ごちとん」のメニューは800円台から1000円超えまでの価格帯が中心で、これはラーメンの価格水準とほぼ同等である。
本来、汁物に1000円を支払うことは心理的抵抗を伴うはずだ。しかし、「ごちとん」は商品構成・器・盛り付け・食体験の総合的演出によって、その抵抗感を見事に消し去っている。視覚的・経験的には完全に「麺の入っていない具だくさんのラーメン」であるため、その価格設定はむしろ自然に受け入れられているのである。
ラーメン市場の成功に学んだ「高度なブランド構築」
総じて、「ごちとん」の戦略は豚汁という伝統食を、単なる専門店にするだけでなく、「ラーメン」という巨大マーケットの形式を借りて最適化した点にこそ独自性がある。ラーメンの文法を借りることで、豚汁を一気に現代的な外食フォーマットへと昇華させたのが面白いところだ。
これは、巨大なラーメン市場の成功要因を抽出し、そのエッセンスを丁寧に豚汁へ移植した高度なブランド構築と言ってよい。
「ごちとん」は豚汁をラーメンのマーケット構造へ巧妙に接続する形で、豚汁が家庭料理であると同時に、演出次第で十分に外食の主役になれるという1つの明確な回答を提示した。このモデルは、今後の外食マーケットにおける1つの示唆となるはずだ。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら



















無料会員登録はこちら
ログインはこちら