トヨタが捨て身で挑む中国エコカー決戦

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トヨタで国内外のHV販売台数が逆転したのは10年だ。国内を大きく上回っていた北米の販売台数が、リーマンショックや大規模リコールで減速。一方で国内販売は09年からのエコカー補助金で急増した。

中国に加え、トヨタは米国でも一段の普及に向けてHVユニットの現地生産を準備している。カギになるのはやはり低価格化だ。

今、トヨタは14年発売の4代目プリウスに載せるHVシステムについて、グローバルな普及の切り札にするべく、最終の追い込みをかけている。その目標は、3代目プリウスに搭載されたHVユニットから、コストを半分以下にすることである。

小型HVの「アクア」では、モーターの巻き線工程で画期的な革新があり、HVユニットの小型化と低価格化が進んだ。しかしこの技術はプリウス以上の中型車には使えない。モーターの原価の半分ほどは電線だが、そのコストが思うように下がらないのが一つのネックだった。

業を煮やしたトヨタは豊田市内に自ら電線工場を建設。社内でもほとんど知られていない極秘の施設だ。「現時点でも巻き線の性能と価格は目標値に達していない。技術的なブレークスルーを見いだすには自社でやるしかない」(トヨタ幹部)。中国で現地生産するユニットは3代目プリウスのものを原型にするもようだ。

5月9日に発表されるトヨタの12年3月期決算では、4期連続で単体が営業赤字になるのが確実。年間7600億円に上る研究開発費のほとんどを、赤字の国内事業が支える構造は限界に近づく。世界各地の研究開発拠点に仕事を移す流れは止まるまい。

初代プリウスのチーフエンジニアを務めた技術担当の内山田竹志副社長も、中国でHVを開発・生産することには何の迷いもないとし、こう言い切る。「技術漏洩を心配するのは、前進する自信がない人。日本はもっと先に進む」(内山田副社長)。系列サプライヤー(部品会社)も中国に成長機会を求める中、トヨタのモノづくりは大きく変わる。切り札であるHVを携え、いよいよ中国戦略に本気になったトヨタ。もう後戻りは許されない。

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(週刊東洋経済2012年5月12日号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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