トヨタが捨て身で挑む中国エコカー決戦

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TSI採用の車と従来車種との価格差は、1万元(約13万円)余り。片や「トヨタ車の場合、HV化に伴う価格アップは8万元(約104万円)超。日本からユニットを輸入している現状では、とても勝負にならない」(中国のトヨタ幹部)。

中国政府のエコカー支援策でもHVは割を食う。電気自動車(EV)への購入補助金は最大6万元(約78万円)なのに、HVはわずか3000元(約3・9万円)。HVでは日本勢、特にトヨタの競争力が飛び抜けており、中国政府としては、地場系も含め同じスタートラインで勝負できる、EVを優先したいのだ。

ここまで追い込まれていたHVに、トヨタがにわかに注力する背景には、政策の風向きが変わったとの判断がある。トヨタで中国事業を統括する新美篤志副社長は、「従来の中国はEV偏重だったが、この半年で変わってきた。バッテリーがなかなか安くならず、ガソリンエンジンも備えたHVのよさが見直された」と言及。HVユニットの現地生産化を前提に、「中国では生産拠点があと2カ所必要」と断言した。

トヨタは12年に100万台と見込む中国での販売台数について、15年には160万~180万台まで拡大させることを目指す。現状では中国で抱える生産能力は年82万台。12年夏までに、長春で新工場が稼働すれば92万台に増えるが、それでも15年の販売目標には遠く及ばない。時期は明示しないものの、中国で販売する車の2割をHVにすることも掲げている。

ただし問題は過剰生産を懸念する中国政府が、完成車工場の新設を厳しく制限していることだ。富士重工業が大連で進めていた奇瑞自動車との合弁計画も、認可が下りず、13年の生産開始を断念するに至った。

すでに中国での生産能力が限界に来ているトヨタにとって、早期の新工場建設は至上命題だ。HVユニットを現地生産化するという判断には、製造コストの引き下げと同時に、完成車工場の能力増強に向けて、中国政府の心証をよくしたい計算も働いたものと思われる。

「中国で新工場を造るには自主ブランドのエコカーを出す必要がある」(中国の自動車事情に詳しい現代文化研究所の呉保寧氏)。その言葉どおり、モーターショー初日にトヨタは、第一汽車(一汽)、広州汽車(広汽)と合弁で、それぞれ自主ブランドを導入すると発表するなど、中国政府へのアピールに懸命だ。

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