定番のホームドラマ激変、「共同生活もの」が増える理由~『ぼくたちん家』『終活シェアハウス』『ひらやすみ』が映し出す新しい「ホーム」

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ただ同じマンションに住んでいるというだけで、普通はここまで込み入ったプライベートの話はしないだろう。ところがこの3組は違い、大きな悩みをシェアし、支え合う。その意味で、このドラマは隠れた「共同生活もの」と言っていい。

脚本は岡田惠和。岡田はかねて共同生活をしばしば描いてきた。たとえば、NHKの朝ドラ『ひよっこ』では有村架純演じる矢田部みね子ら同年代の職場仲間たちの寮生活が描かれたし、『最後から二番目の恋』シリーズ(フジテレビ系)では、中井貴一演じる長倉和平の家族と小泉今日子演じる吉野千明が毎日朝食をともにする。『小さい頃は、神様がいて』も同じラインに連なる作品だろう。

「共同生活もの」増加が映す新しい「ホーム」の概念

日本のドラマの歴史は、ホームドラマの歴史でもある。その主役は、高度経済成長期くらいまでは「肝っ玉母さん」と呼ばれるような専業主婦が支える3世代同居の大家族というような場合が多かった。その後社会でもドラマでも核家族化が進み、さらに多様な家族の姿が描かれるようになった。

ただ、そこでも血のつながりを重視する家族観はあまり変わらなかったと言える。

『小さい頃は、神様がいて』の小倉家は、そうした従来のドラマでよく描かれてきた典型的な家族でもある。だが同時に高齢者夫妻や同性カップルも同じ屋根の下にいて、同じ目線の高さで描かれている。

その点、『小さい頃は、神様がいて』は、「家族」や「ホーム」についての既成概念が大きな過渡期を迎えた現在の日本の縮図のようなドラマだ。そのなかで、世代や性的指向が異なる家族同士はどうすれば相互理解が進み、共感できるのかを探ろうとするドラマになっている。

『ぼくたちん家』もそれに近い。疑似家族と同性カップル。この2組の物語が同時進行する。また『終活シェアハウス』の高齢の女性たちは、新たに友人同士で家族をつくる。そこに孫ほどの年頃の若い2人が加わり、両者は世代を超えて協力し合う。どちらのドラマも血縁関係は家族の前提にはなっていない。

『ひらやすみ』のヒロトとなつみはいとこ同士なので、血縁関係はある。しかし、互いに気づかいつつも干渉はしない。ヒロトのほうは、世間の常識と距離をとり、家の外の社会とかかわりを持つことを極力控えているようでもある。だからのほほんとしているように見えて、現在の平屋の共同生活は彼なりに考えて選択した生き方なのだろうということも伝わってくる。

これらのドラマは、従来の家族像からいったん離れて、「ひとりの人間がより良く誰かとともに暮らすにはどうすべきか」を問いかけてくる。そしてそれらがこの2025年秋に同時に放送されていることはいかにも象徴的であり、ホームドラマの進化を示すものであるように思える。

太田 省一 社会学者、文筆家

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おおた しょういち / Shoichi Ota

東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビと戦後日本社会の関係が研究および著述のメインテーマ。現在は社会学およびメディア論の視点からテレビ番組の歴史、お笑い、アイドル、音楽番組、ドラマなどについて執筆活動を続ける。

著書に『刑事ドラマ名作講義』(星海社新書)、『「笑っていいとも!」とその時代』(集英社新書)、『攻めてるテレ東、愛されるテレ東』(東京大学出版会)、『水谷豊論』『平成テレビジョン・スタディーズ』(いずれも青土社)、『テレビ社会ニッポン』(せりか書房)、『中居正広という生き方』『木村拓哉という生き方』(いずれも青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』(筑摩書房)など。

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